俺ガイルss 八幡 笑う。 俺ガイル小説版6.5巻の感想と考察。相模南は成長した?成長してない?|「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。(俺ガイル)」解説・感想・考察サイト

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。SS

俺ガイルss 八幡 笑う

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 8巻発売前に書いています) 修学旅行からしばらく、奉仕部の間では俺の嘘告白のために一悶着あったのだが、先日どうにか一段落がついた。 それからまた数日経ったある日の昼休み、自販機前で俺はそいつと会った。 「おっ、ヒキタニくん、おつかれ〜」 「おお」 修学旅行以来、妙に馴れ馴れしく話しかけてくるようになった戸部だった。 むしろ懐かれている気さえする。 俺としては、戸部には恨まれても仕方ないくらいのつもりでいたのだが、もしかしてこいつニワトリなの? 三歩歩くと何でも忘れちゃうの? 頭黄色っぽいからむしろヒヨコなの? 「お前、よく普通に俺に話しかけるな。 ライバルじゃなかったのか?」 「え? だって、あの告白って嘘なんしょ?」 少し驚いた。 こいつ、あの嘘告白の意味を分かっていたのか? 「隼人くんが教えてくれたんだけどさ」 ああ、なるほど。 葉山もフォローしてくれていたわけね。 どこまで説明したのかは分からんけど。 嘘告白のことは大岡や大和あたりから噂が流される事も覚悟していたのだが、そうはならなかったし、あいつが口止めしてくれていたのかね。 「つーかさ、俺に嫌われるかも知れないのに、俺らが気まずくならないようにああ言ってくれたんっしょ? ヒキタニくんって実はすっげーいい奴なんじゃねと思ってさ」 「いや…、奉仕部の仕事だったしな。 俺が勝手な判断でやっただけだ」 「うん、そういうところがヒキタニくんマジクールで格好いいっしょ」 ううむ…、調子が狂う。 これまでにも由比ヶ浜の背後に本来無いはずのしっぽがブンブン揺れているのが見える気がしたことはあったが、今こいつの背後にも揺れるしっぽが見えた気がする。 もしかしてこいつも犬なの? 毛並み黄色っぽいしな。 「だいたいさ、ヒキタニくんが海老名さんを好きってのは、考えてみると不思議な気がしたんだわ」 「まあ、普段たいして接点無いしな」 こいつも物を考えるのだなと思いつつ、MAXコーヒーをすすりながら俺は適当に返事をする。 冬はやっぱり熱いMAXコーヒーだな。 「だしょー、ヒキタニくんが好きになりそうな女子ったら、普通に考えたら結衣じゃね?」 … … … …ぶ、ぶはぁっ! げ、げふっ げふげふっ! 思わず口に含んでいたMAXコーヒーを吹き出してしまった。 こーっ、こここここここいつ、一体何言い出すの? 衝撃のあまり俺がニワトリになっちまったじゃねーか。 「お、おいおい、大丈夫か? ヒキタニくん、ほらティッシュ」 「お、おう。 ち、ちょっとMAXコーヒーが喉につまっただけだ。 …しかし、お前は何を言い出すんだ? そんなことあるわけねーだろ?」 ひーひーふー、ひーひーふー、なんとか心を落ち着かせる。 「だって修学旅行でもずっと結衣と一緒で、すっげー楽しそうだったっしょ。 2人でツーショット写真撮ってたし」 見てたのかよ!? いやまあ、あの状況じゃ誰に見られていてもおかしくないんだけどな。 考えてみれば、あの時こいつ近くにいたし。 ちなみにあの写真は由比ヶ浜にデータをもらってうちのパソコンにも入っているが、まあせっかくの旅行の記念だから素直に受け取ったのであって特別な意味は無い。 せっかくの修学旅行だからな。 マイスマホにもたまたま同じ写真がたまたま入っているが、あくまでもたまたまであって別に決して特別な意味は無い。 「修学旅行で由比ヶ浜と一緒にいたのは、奉仕部の仕事だったからだろ。 別にそんな色っぽいもんじゃねーよ」 落ち着いて言う俺、マジでCOOL! COOL! COOL! 「んー、そうかあ? 結衣もヒキタニくんのこと気にしてる気がするけどな。 前にヒキタニくんのこと悪く言ったら怒られたし」 「…ああ、お前が依頼に来た時か。 あいつは人の悪口とか嫌がる奴だろ。 別に俺の事だから怒ったわけじゃねーよ」 あだ名のつけ方は悪口みたいだけど悪意は無いしな。 「そっかー。 大発見だと思ったんだけどなー」 パタパタパタパタ… 放課後、 部室に向かう特別棟の廊下で、聞き慣れた足音が追いかけてくる。 「やっはろー! ヒッキー、部室一緒に行こ!」 「おお」 今日も元気な由比ヶ浜結衣だった。 修学旅行直後はその笑顔にも無理をしている様子が感じられたが、今はもう平常運転に戻ってくれている。 アホっぽくも安心出来る笑顔だった。 「そういえばさ、ヒッキー最近とべっちと仲いいよね」 「別に仲良かねーよ。 あいつが勝手に懐いてくんだよ。 あいつもお前みたいに犬っぽいのな」 「人を犬扱いするなし! 失礼だし!」 「少しちっちゃくて茶髪で人懐っこくてアホっぽいお前がサブ…、ええと、歌の上手そうな、サブちゃんと同じくミニチュアダックスフントだとすると、 でかくて金髪で人懐っこくてアホっぽい戸部はゴールデンレトリバーとかか? …あ、いやゴールデンレトリバーは賢いんだっけ。 じゃあ何か適当な大型犬だ」 「サブちゃんじゃなくてサブレだし! あたしアホっぽくないし! でも、とべっちが大型犬っぽいってのはなんとなく分かるかも」 「お前も戸部の犬扱いに同意してるじゃねーか。 まったく失礼な奴だな」 「う…、それは確かにそうだけど、でもヒッキーが失礼言うなし!」 「そういえばさ」 と、由比ヶ浜は俺の顔を覗き込みながら話を続けてくる。 「ヒッキーととべっちってどんな話してるの? ちょっと会話が想像出来ないんだけど」 ギクリ、 昼休みの会話を思い出して、思わず目を逸らしてしまう。 「…おい、ちゃんと前見て歩かないと危ないぞ。 ほら、転ぶぞ? …別に、戸部との話なんて、どーってことの無い世間話だ。 だって戸部だぞ? たいして実のある会話が出来るわけねーだろ?」 「そっかー、そうだよね」 自分で話しておいてなんだが、あっさり納得しちゃったよ、こいつ。 こいつの戸部への評価も割とヒドいな。 しかし、おかげで話を逸らすことが出来たようで、さらに前を向かせることにも成功したようで、頬が赤くなっているかも知れない自分の顔を想像しながら、少しホッとした。 50巻ネタバレです。 むしろ6. 50巻を読んでいないと分かりません。 75巻発売前に書いています) 「だってさ」 運動部の男子からアドレス交換を求められていた彼女、由比ヶ浜さんが僕の方に声をかけてきた。 あざやかなものだね。 僕もすかさずその意図を汲んで運動部男子とアドレスを交換してみせる。 喋るのは苦手だけど行動の速さは僕の特技だ。 それにしてもこの男、露骨に残念そうな顔をするな。 仕事の為にと言う名目のアドレス交換だったが、サボってばかりの現状を見るに、僕がゲットしたこのアドレスが使われることは決して無いだろう。 一見派手に見える由比ヶ浜さんだが案外身持ちは堅いようだ。 彼女が体育祭運営委員会に参加してしばらく経つが、気遣いが出来て優しくて、結構真面目な彼女の性格は既に大体分かっている。 最初は少し意外だったけど、由比ヶ浜さんがあの雪ノ下さんと仲が良さそうなのも今では納得出来る。 雪ノ下さんも由比ヶ浜さんのことはとても信頼しているようだしね。 由比ヶ浜さんのその童顔で可愛らしい容姿も、優しい性格も、うっかりすると惚れそうになるけど、 僕には既に憧れのめぐり会長がいるので、会長を差し置いて由比ヶ浜さんに惚れたりすることは無い。 本当だよ。 まあ結構いいなとは思ったりはしたけど。 彼女の柔らかく人懐っこいところはめぐり会長と少し似た雰囲気もあるし、ナンパ男からのガード役になるくらいの事はしてあげたくなるが、特に浮気にはならないだろう。 まあ浮気も何も、僕とめぐり会長は付き合ってるわけでも何でも無いのだけど。 それどころか、会長には最初はなかなか名前を覚えてもらえなかったしなあ。 あの人は生徒会長としては、一見頼りなげだし決して個人の能力が高いわけでは無いけど、観察力はあるし人当たりの良さや人使いの上手さは備えているし、あれはあれで会長役には適していると僕は思う。 だけど…、人の名前を覚えるのだけは苦手なんだよなあ、あの人。 決して僕の存在感が薄いからってだけが原因では無いのだと思いたい。 「…釘がねぇな」 「はい」 目論見が外れた運動部男子達はそろそろ部活にがあるからなどと言いつつ、そそくさと去ってしまっていた。 もうこの場に残っているのは3人だけだ。 生徒会役員の僕と、奉仕部から体育祭運営委員会に協力してくれている由比ヶ浜さんと、本来の役割では無いのに手伝いに来てくれた比企谷くんだ。 (ところで妙な噂のせいで、最近めぐり会長に訂正されるまで彼のことを「ヒキタニくん」だと思っていたよ。 すまない比企谷くん) 「ていうか、もういいのか」 「へ? なにが?」 「いや…いいなら、いいんだけど」 比企谷くんはさっきの顛末の間も黙々と仕事をしていたけど、由比ヶ浜さんとナンパ男とのやり取りは結構気にしていたようだ。 時折チラチラ2人の様子を伺っていたしね。 ポーカーフェイスぶってるけど、意外と分りやすいよ、きみ。 対して由比ヶ浜さんは、先ほどの運動部男子達に対するのとは全く違った嬉しそうな微笑みで、無愛想に釘を打つ比企谷くんを見つめている。 こちらはストレートに分かりやすいなあ。 見ていて微笑ましくなる。 僕は校内の噂に詳しいわけではないが、比企谷くんが悪く言われているのは知っている。 だけど僕は彼が嫌いじゃない。 だって文化祭実行委員会でも体育祭運営委員会でもずっと一緒に働いてきたのだ。 彼とたいして言葉を交わしたことは無いが、生徒会役員や雪ノ下さんを除けば、彼が誰よりも働いていたのは知っている。 こういうのはなんと言ったっけ…、 えーと、「ステルス使いは引かれ合う」? まあ、親しいわけでもないし、引かれ合うと言うのは語弊があるかね。 「なんかさ…こういうの、いいよね」 「どこが…」 「なんか、青春っぽい」 校内では嫌われているらしい比企谷くんだが、由比ヶ浜さんにとっては関係が無いようだ。 由比ヶ浜さんの言葉に彼は社畜だの頭悪そうだのと言い返して、由比ヶ浜さんも抗議したりしていたが、言い合いをしても険悪さは感じなかった。 お互いに言いたいことを言って、それでも自然な空気でいられる2人を見ていると、 僕からは十分に「青春っぽい」と見えるよ? 比企谷くん。 君は随分と悲観的なようだけどさ。 「ありがとね! ヒッキー」 やがて仕事が一段落して比企谷くんは去っていった。 大きく手を振る由比ヶ浜さんと一緒に、僕も感謝の意を込めて手を降った。 そうして僕と由比ヶ浜さんは残った仕事を再開する。 さっきまでは、正直2人の間に入れなかった事もあって黙っていたが、由比ヶ浜さんと僕しか残っていない状況ではさすがに黙ったままでは働きづらい。 女子と喋るのは苦手だが、少し頑張ってみることにした。 「彼は結構真面目だね」 「でしょう、ヒッキーったら変なとこで真面目なんだよ。 いつも働きたくないとか言ってるくせにね」 比企谷くんを褒められて、由比ヶ浜さんは嬉しそうだ。 やっぱり分かりやすいなあ。 何やら背後にしっぽのような物がブンブン揺れたのが見えた気さえするよ。 「比企谷くんとも、雪ノ下さんとも、奉仕部は仲がいいんだね」 するっと言葉が出た。 「そう見える、かな? だったら嬉しいかな…、えへへ」 由比ヶ浜さんは照れくさそうに、そして嬉しそうに笑う。 まったく、こんな笑顔を身近に見ているだろう比企谷くんが羨ましくなる。 まあ僕が好きなのはあくまでめぐり会長だけどね。 彼ももうちょっと愛想を良くすればいいのに、捻くれているのだなあ。 彼の噂の事も少し聞いてみたい気もしたがやめておく。 この笑顔を曇らせそうな気もするしね。 だが、もう一つ気になっていた事はうっかり口から滑ってしまった。 「比企谷くんと雪ノ下さんも、あれは仲がいいのかな。 文化祭でも漫才してたし」 「へ? ゆきのんが漫才?」 う…、ちょっとマズったかも知れない。 由比ヶ浜さんは比企谷くんを好きそうに見えるけど、僕は奉仕部内での人間関係に詳しくはないのだ。 部活仲間とは言え、彼が他の女の子と親しくしていた様子を話題に出すべきでは無かったかも知れない。 やはり口下手な人間が喋ると上手くいかないものだ。 仕方ないので文化祭のオープニングセレモニーで2人がインカムでしていた漫z…、いや会話の事を説明した。 内心ではかなり焦っていたのだが…、 「あはは、ゆきのんったらヒッキーいじるの大好きだから。 部室でもだいたいそんな感じだよ」 由比ヶ浜さんは屈託のない笑顔で笑っている。 特に問題無かったようで一安心した。 やがて無事に…と呼ぶには問題もあったが、今日の仕事は終わった。 機嫌が良さそうに運営委員会の本部会議室に向かう由比ヶ浜さんを見ながら、僕は思う。 由比ヶ浜さんは本当にいい子だ。 僕には奉仕部の人間関係も、比企谷くんの内心も分からないが、 出来れば彼女が泣くことがなければいいと思うんだけどね。 比企谷くん。 しかし、目覚ましをセットしていた1時よりはギリギリ早く起きたので良しとする。 やはり俺の身体は寝正月に順応しているんだよな。 決して昨晩色々考えてしまって寝るのが遅くなったからというわけではないのだ。 2時には由比ヶ浜が来るはずだし、さっさと朝食? を済ませないとな。 由比ヶ浜と初詣か。 いつものようにまず断って見せたが、実のところ本当に嫌と言うわけではない。 本当に嫌ならどれほどラクだったことか…。 あ、いや、今のなし。 向き合う事を決めはしたものの、やっぱり思い切りってものがなかなか付かないし、なかなか上手くもいかない。 修学旅行ではあいつを傷つけてしまったが、あいつはそれでも俺から離れようとはしなかった。 俺にはそんな価値は無いだろうに。 それ以来、考えることはますます増えて、距離感をどうすればいいのか延々と迷ってしまって考えがまとまらない。 こういう答えが出ない事で悩んでいると、数学みたいな「答えのある」問題が分かりやすく見えるとか、銀の匙で八軒さんが言ってたっけ。 今なら俺にも数学の問題が楽々解けるようになっているかも知れないな。 八幡と八軒ってちょっと似てるし。 「あ、やっと起きたのねバカ息子。 あけましておめでとう」 「あけましておめでとう、母ちゃん」 と、リビングで母親と挨拶を交わして、俺はようやく重大な事態に気が付いた。 … … … 今日、親がいるじゃん! ヤバい、これでは由比ヶ浜とうちの親が対面してしまいかねない。 急いで顔を洗って、急いでお年玉を請求して、急いでおせちを食って、しかしおもちだけはしっかり噛んで、急いで部屋に着替えに戻る。 とっとと着替えてあいつが着く前に家を出て、外で出迎えるのだ。 ズボンを履きながら時計を見ると、まだ1時45分だった。 これなら十分に間に合う。 そうだ、由比ヶ浜にも先にメールを送っておくか、と思ったその時だった。 ピンポーン … 由比ヶ浜さんかい? 早い、早いよ! あと15分はあるはずでしょう!? こういう時は慌てた方が負けなのよねと言うが、既に状況は限りなく敗色が濃厚になっている。 シャツのボタンを急いではめようとするが、焦ってしまって上手くいかない。 なにこれボタンの段がズレちゃってる! 開いたままだった部屋のドアを通して、玄関の方の声がかろうじて聞こえてくる。 対応に出たのが小町であれば、まだ大丈夫なはずなのだが…。 「結衣さん、あけましておめでとうございます!」 小町の声だ。 中学生としてはちょっと背が高く見えても、精神年齢なら小町とタメでも通じるはずだしな。 「いえあの、小町ちゃんとも仲良くしてもらってるんですけど、あの、あたし、ヒッ、いえ比企谷くんのクラスメイトで、部活仲間の由比ヶ浜結衣といいます!」 … … … 終わったーーーーーー! 「あとその、サブレの、うちの犬のことでも比企谷くんにはお世話になってしまって」 「ああ、サブレの飼い主さんだったのね…」 あーあ…、そんな事までぶっちゃけちゃってるよ。 頭を抱えつつも、ようやく着替え終わった俺は上着と財布を引っ掴んで玄関に、決して走らず急いで歩いてきて、そして早く僕を、誰かボスケテーーー!! 「…にしなくていいのよ。 まさかあの子にこんな可愛…「あけましておめでとう!由比ヶ浜!」」 何かを言いかけた母親の言葉にかぶせて、珍しく大きな声で元気よく挨拶をしてみた。 似合ってない。 我ながら絶望的に似合っていない。 「待たせたな。 じゃあ、すぐ行くか。 まあクラスメイトや部活仲間と初詣くらい普通の事だしな!」 「いや、ご挨拶がまだ途中だし」 「そうだよお兄ちゃん! こういうのは最初が肝心だよ!」 小町がキラーンとした笑顔でぬかしおった。 こいつうぜえ…。 ふと母親を見ると、小町と同じキラーンとしたニヤリ顔で俺を見ていた。 …やっぱりこの人達、親子だ。 更にその時、 「え? お客さん?」 …親父まで通りかかっちゃったよ。 今までトイレに入ってたわけね。 ああ、外堀が…、俺の外堀が物凄い早さで埋まっていく。 これが「一年の刑は元旦にあり」ってやつなの? 結局、親父にまでしっかりと挨拶されて、家族全員(ただしカマクラは除く)に生暖かい笑顔で見送られることになってしまった。 玄関のドアを締めた時、「まさかあのバカ息子に…」とか「今夜は赤飯だ…」とか漏れ聞こえた気がしたがスルーだ。 つーか、最初からおせちに赤飯入ってなかったっけ? つーか、俺、今日どんな顔して家に帰ればいいの? 笑うしかないと思うよ? 家を出て、由比ヶ浜と2人で神社に向かって出発する。 気は急いていたが、由比ヶ浜が慣れない下駄で歩きにくそうな事に気付いて速度を落とした。 いかんいかん。 さっきはそれどころじゃなかったが、由比ヶ浜は振袖…じゃない小紋というやつか? 俺にはよく分からないが着物姿だったのだ。 落ち着いて見ると、カジュアルな柄ではあったが、普段とは違った少し大人びた雰囲気にドキッとする。 「ばたばたして悪かったな」 「いや、あたしこそ、なんかごめんね、ヒッキー」 由比ヶ浜は申し訳なさそうに見つめてくる。 いやだから、その上目づかいやめろ。 言おうと思っていた文句が引っ込んじまうじゃねーか。 「あー、もうそれはいい。 あと、その…なんだ、今日の格好、似合ってるな」 「ヒッキー…、…ありがと!」 一瞬にして由比ヶ浜の表情がくるくると変わって、やがて照れたように微笑んだ。 だからそういう照れ笑いやめろって。 伝染る、伝染るから。 「そういや、今日はえらく早かったな」 話を逸らすように俺は言った。 「うん、花火の時は歩き慣れない格好で遅れちゃったから、今回は早めにと思って」 なるほど、由比ヶ浜にはちゃんと学習機能がついているのだな。 ちょっと早すぎましたけどねー。 あっちを向いてるけど、この冬の寒さの中で首筋に冷や汗ダラダラ流れてるし。 今日は髪をアップに纏め上げてるものだから丸分かりだ。 策士だ、策士ガイル! この策士ヶ浜さんめ! それとも策士は小町の方か? どちらにしても、女怖い、怖いよ! 「そうだ、言い忘れてた」 「ん?」 俺の方に向き直った由比ヶ浜は、こほんと前置きして、とびきりの笑顔でこう言った。 「あけましておめでとう! 今年もよろしくね! ヒッキー」 「お、おう…、あけましておめでとう。 由比ヶ浜」 …何と言うか、その、かなわんなあ…。 ようやく目当ての神社に付いた。 大きな神社では無いが、やはり結構な混み具合だ。 由比ヶ浜とはぐれたらマズいなと思ったところで、袖をきゅっと掴まれた。 こういう場で由比ヶ浜と2人きりだと、また相模みたいな奴に会わないかと警戒もしたのだが、その点は大丈夫だったようだ。 だったのだが…、 何やら遠目に太ったコートの男が見える気がする。 勿論全力でスルーだ。 さすがに冬だとあのコートも違和感は無いな。 今年こそ賞が取れますようにとか声に出してるんじゃないよ。 つーか原稿ちゃんと書いてるのか? 隣を見ると、由比ヶ浜も何とも言い難い困った表情で、たははと笑っていた。 遠目に見える謎の男の目線に入らないように注意しつつお参りを済ませ、小町の為のお守りやベビーカステラを買って、ようやく人の波から離れたところで今度は予想外の人物と出くわした。 「あ、結衣、ヒキタニくん、あけましてはろはろ〜」 海老名さんだった。 今日は家族と来ていたのか、少し離れたところにいる夫婦らしき人達に手を降ってこちらに近づいてきた。 「今日は2人なんだね」 「う、うん、部活仲間だしね」 由比ヶ浜が真っ赤になって慌てた様子で言い訳している。 修学旅行の嘘告白が特に噂にならずに済んだこともあって、俺と海老名さんの関係は表面上も以前と変わらず、適当な距離感を保っている。 しかし、未だに「はやはち推し」してくるのだけは正直勘弁して下さい。 カモフラージュでやってるのかとも考えたけど、「はやはち推し」だけはどうも本気でやってるように思えて心底恐ろしいんですよ。 この人には必要無い気もするが、一応言っておくか。 由比ヶ浜と何やら話していた海老名さんに俺は言った。 「あー、海老名さん。 俺と由比ヶ浜が2人で出かけてたとか、あまり人に言わないでな」 俺の言葉に由比ヶ浜は一瞬不満そうな表情を見せる。 …いや、お前だって言い訳してたじゃん。 お前が変な噂の的になるのは嫌なんだよ。 「あはは、分かってるって、別に誰にも言わないよ〜」 いつもの調子でお気楽に笑う海老名さん。 まあ、この人は余計なことを言いふらしたりはしないよな、と思ったところだったが、 不意に表情を変えると、とんでもないことを言い出した。 「…いや、…やっぱり、口止め料を払ってもらおうかな」 「は?」 「ひ、姫菜、口止め料って」 慌てた俺たちに海老名さんはニヤリと笑いながら言う。 「写真、撮らせてよ。 きみたちの携帯でね」 … 「はい、フレームに入らないよ。 もうちょっと寄って〜」 ピロリロリン ポーズがどうだ角度がどうだ背景がどうだで、俺と由比ヶ浜のそれぞれの携帯で4〜5枚ずつツーショットを撮影されてしまった。 幸い人通りは少ない場所だったが、何この羞恥プレイ。 いやまあ、口止め料と言われては仕方ないし拒否権ないし、着物姿の由比ヶ浜というのも珍しいし、そういう写真があるのも悪くは無いか。 まあ、その、せっかくだし、希少価値的に。 「じゃ〜ね〜」 「あ、ありがとね! 姫菜」 写真を撮り終えると、軽いノリで手をひらひらと振りながらあっさり海老名さんは去っていく。 俺の横を通り過ぎる時、小さく俺だけに聞こえる声で言い残した言葉が胸に残った。 「ヒキタニくんは、大丈夫だといいね」 …どうなんだろうなあ、海老名さん。 俺はいつまでたっても自信が持てない。 神社を出たところで由比ヶ浜が言った。 「ところでさ、明後日ゆきのんの誕生日だよね」 「へえ、そうなのか。 そう言えば生まれた時に雪がどうとか言ってたな」 「お家でお祝いするらしいから当日は無理だけど、学校始まったらあたし達もお祝いしようね」 「まあ、いいんじゃないか」 「だから、休み中にプレゼント選び付き合ってよ」 …て、また約束増やすのかよ。 正月とは言えそれなりに元旦から開いてる店もあるし、今日このまま選びにいけばと一瞬思わないでも無かったが、慣れない下駄で普段より歩みが遅いこいつを見るとそんな事は言えるわけもない。 まあ、考えてみればこいつの誕生日の時には雪ノ下と選んだわけだしな。 「仕方ない、買い物くらい付き合うわ」 全くもって仕方ない。 決して嫌だというわけでは無いのが本当に困るんだっての。 「やった。 じゃあ、近くの茶店でパーティーの作戦会議ね」 俺の袖を引っぱりながら、誕生ケーキはどうしようかとか、 そういえばあたしの方がゆきのんよりお姉さんだったんだね、えへへー、などとつぶやく由比ヶ浜に、 お前絶対に自分でケーキを作ってみようとか考えるなよとか、 お前が俺達3人の中で一番お姉さんとかなんかおかしいだろとか、ツッコミを入れながら一緒に歩いていく。 正しい距離感なんてものは未だに迷ってばかりだが、今日ばかりはこの近しい距離も悪くは無い気がした。 まあ、その、せっかくの正月だしな。 反省しています。 ベタです。 シリアス皆無です。 7巻ネタバレです。 「一応、丸く収める方法はある」 「どんな方法?」 由比ヶ浜が小首を傾げて訪ねてくる。 だが、正直なところ、あまり言いたくなかった。 その逡巡を察したのか、雪ノ下は短く息を吐いて俺を見つめる。 「比企谷くん、私の思い違いかも知れないけれど、あなた、何か隠していない?」 静かに澄んだ目で見つめられて、動揺を隠しきれなかった俺は一瞬身体が固まった。 その一瞬を見逃すはずもなく雪ノ下が続ける。 「…やっぱり、あるのね」 等間隔で置かれた灯籠を一つ、またひとつと追い越して、海老名さんが戸部に近づいていく。 もう迷っている時間は無い。 あと50m… 観念して俺は言う。 「詳しく話している時間は無いが、海老名さんは誰とも付き合う気は無いらしい。 そして今の関係を壊したくない奴らがいる」 「そう、そういうこと。 もっと早く言って欲しかったわね」 「姫菜が…、そうだったんだ…」 「だから、俺が海老名さんに告白して振られればいい。 海老名さんが誰とも付き合う気がないと、戸部に伝われば成功だ」 二人は一瞬息を呑んだ。 「えっ、で、でもそれって」 「なるほど、戸部くんは直接振られずに済むし、グループ内の関係も壊れないと言うことね、…でも」 冷たい目で俺を見つめながら雪ノ下は更に続けた。 「うまく説明ができなくて、もどかしいのだけれど…。 そのやり方、好きになれないわ」 どんどん戸部に近づいていく海老名さんを見ながら、俺達も焦りが募っていく。 あと20m… 「人の気持ちをそんな風にごまかしちゃうのって…、そんなの…やだよ。 …それに、それって、またヒッキーが嫌なことを全部被っちゃうって事じゃないの?(早口)」 「またあなたの悪い噂が流れる可能性があるでしょう。 文化祭の時ほど酷い事にはならないかも知れないけれど、奉仕部部長としては見過ごせないわ(早口)」 声を震わせる由比ヶ浜の肩を支えながら雪ノ下も言う。 だが、俺はあえて軽く言ってみせた。 「今回は別に自己犠牲ってほどのものじゃないだろ。 所詮芝居だし、俺は振られるのは慣れてるしな(早口)」 「でも、…もしも姫菜がヒッキーの告白にオッケーしちゃったらどうするの!? (早口)」 由比ヶ浜は動揺しているせいか素っ頓狂な事を言い出した。 俺も一瞬ポカンとしてしまう。 あと10m… 「…え、…いや、そ、それはあり得ないだろ? 海老名さんは誰とも付き合う気がないんだし、そもそも俺の告白を受け入れてくれる女子なんているわけないぞ(超早口)」 「そんなの分かんないでしょ!(超早口)」 由比ヶ浜は真っ赤になってまくし立てる。 お前そんなに怒るなよ。 なんだか分からないが雪ノ下もうんうん頷いてるし。 あと5m… 「お前らが嫌がるかも知れないとは思った。 だが、俺には他に方法は思いつかないぞ。 もう時間も無いし、俺がやるしか無いだろう?(高速言語)」 「いいえ、方法ならあるわ。 比企谷くんが犠牲にならず、失敗しても笑い話で済む方法が(高速言語)」 凛とした声で雪ノ下は言い放った。 「私が海老名さんに告白して振られればいいのよ!(高速言語)」 どうしてこうなったのだろう。 修学旅行から数日経った奉仕部の部室で、私の左腕にべったり張り付いている彼女を見ながら私は思い返す。 「ずっと前から好きでした。 私と付き合ってください」 高速ダッシュで飛び出した私の突然の告白に海老名さんは目を丸くしていた。 私はこう考えていたのだ。 私の告白に海老名さんが戸部くんの前で「今は誰とも付き合う気がない」と答えてくれればそれでよし、仮に噂になったとしても女子同士の冗談として済むだろうと。 (私らしくは無いとしても) だけど…、 まさか受け入れられるとは…。 いや、むしろあの時に彼女は新しい扉を開いてしまったのかも知れない。 あの時の、迷いを見せた後で、突然天啓を受けたかのような彼女の顔が忘れられない。 さらには、戸部くんまでがスイッチが入ったように「それはそれで!」とか言い出すなんて。 何故あの人まで目を輝かせて親指を立てていたの? 状況がよく分かっていなかったのかしら。 正直私にもよく分からないけれども。 一応は丸く収まったらしい事だけが救いだった。 私の左腕に引っ付く海老名さんに対抗意識を感じるのか、右腕には由比ヶ浜さんまでが引っ付いてくる。 頬を膨らませるんじゃないの。 小さな子供みたいなことは止めなさいあなたも。 もう11月だというのに、この暑苦しさは何なのかしら。 これじゃ本も読めないじゃない。 比企谷くんは腐った目で「ゆるゆりならともかく…」とかブツブツ呟いていて気持ちが悪い。 あなたは時々思っていることが声に出ているから気を付けなさい。 海老名さんは「卒業したらマサチューセッツ州に行こうね」とか言ってくるのだけれど、一体どういう事なのかしら。 一体どこで選択を間違えてしまったのか… …やはり私の青春ラブコメはまちがっている。 今回も、前回同様にヒドい馬鹿ネタです ・e・; 7巻ネタバレです。 「一応、丸く収める方法はある」 「どんな方法?」 由比ヶ浜が小首を傾げて訪ねてくる。 だが、正直なところ、あまり言いたくなかった。 その逡巡を察したのか、雪ノ下は短く息を吐いて俺を見つめる。 「比企谷くん、私の思い違いかも知れないけれど、あなた、何か隠していない?」 静かに澄んだ目で見つめられて、動揺を隠しきれなかった俺は一瞬身体が固まった。 その一瞬を見逃すはずもなく雪ノ下が続ける。 「…やっぱり、あるのね」 等間隔で置かれた灯籠を一つ、またひとつと追い越して、海老名さんが戸部に近づいていく。 あと50m… 観念した俺は結局2人に説明することになってしまった。 海老名さんが誰とも付き合う気が無いこと、グループの関係を壊したくない奴らがいること、 俺が告白して振られる作戦で、海老名さんが誰とも付き合う気が無いと、戸部に伝われば成功だということ。 予想通り、俺の作戦に2人は否定的だったが、俺達が話している間にも海老名さんと戸部の距離は近づいていく… 「人の気持ちをそんな風にごまかしちゃうのって…、そんなの…やだよ。 …それに、それって、またヒッキーが嫌なことを全部被っちゃうって事じゃないの?(早口)」 「またあなたの悪い噂が流れる可能性があるでしょう。 文化祭の時ほど酷い事にはならないかも知れないけれど、奉仕部部長としては見過ごせないわ(早口)」 声を震わせる由比ヶ浜の肩を支えながら雪ノ下も言う。 だが、俺はあえて軽く言ってみせた。 「今回は別に自己犠牲ってほどのものじゃないだろ。 所詮芝居だし、俺は振られるのは慣れてるしな(早口)」 「でも、…もしも姫菜がヒッキーの告白にオッケーしちゃったらどうするの!? (早口)」 由比ヶ浜は動揺しているせいか素っ頓狂な事を言い出した。 俺も一瞬ポカンとしてしまう。 あと10m… 「…え、…いや、そ、それはあり得ないだろ? 海老名さんは誰とも付き合う気がないんだし、そもそも俺の告白を受け入れてくれる女子なんているわけないぞ(超早口)」 「そんなの分かんないでしょ!(超早口)」 由比ヶ浜は真っ赤になってまくし立てる。 お前そんなに怒るなよ。 しかし、もう本当に時間は無いのだ。 焦った俺の口からは、つい普段なら決して口に出さない言葉が滑り出してしまった。 「じゃあ、お前だったら俺の告白受けるのかよ!? (超早口)」 「受けるに決まってるでしょ!(超早口)」 「あ」 「あ」 … … … …な、何を言ってんの俺はーーー!? 自分の頬が熱くなっているのが分かる。 由比ヶ浜の顔も真っ赤に染まっているように見える、見えてしまうが…。 …あ、いや、これはきっと灯籠の明かりのせいで普段より赤っぽく見えてるだけだよな。 きっとそうだよな。 つい数分前と比べても由比ヶ浜の顔は明らかに真っ赤っ赤であわあわ言ってるように見えるけれども。 ああ、赤いと言えば、秋の京都の紅葉は夜でも綺麗ですよね… ライトアップされた緑の竹林と赤い紅葉のコントラストって映えるよなあ… …って、そんな場合じゃねーーー! 「お、おおおおおおお落ち着け由比ヶ浜! お、お前テンパッて何を言ってるか分かってないだろ!? (超早口)」 「ま、ままままままま間違いだし! い、いや、間違ってるわけじゃないけど、今言うつもりじゃなかったってゆーか、あの…、えとえっと、ヒッキーどもっててキモい! マジキモいから!(超早口)」 「どもってるとかお前が言うな! つーか、やっぱり間違いだよな、やっぱりそんなキモい奴と付き合うとかあり得ないよな!(超早口)」 「え? いやキモい部分は別に問題無いと言うか、ヒッキーの駄目なところなんて山ほど知ってるんだから今さら別に気にしないと言うか…、いいところも知ってるし優しいし、いや…、その…、てゆーかあたしじゃ不満なの!? (超早口)」 「逆ギレするな! てかお前に不満なんてねーよ。 まあアホだし料理はアレだけどそんなこと大した問題じゃねーし、優しい奴だし。 むしろぼっちで嫌われ者の俺がお前に吊り合わないんだよ!(超早口)」 「アホじゃないもん! て言うか何それ! そんなのヒッキー1人で決めないでよ。 さっきの事情を黙ってたのも、もしかしてあたしに気を使ってくれたからじゃないの? 気持ちは嬉しいけど、いつも1人で背負い込まないでよ! 私にとってヒッキーは大切な人なんだよ!(超早口)」 「そうは言ってもやっぱり俺とお前じゃ住む世界が違いすぎるだろ。 俺のせいでお前の立場が悪くなるのもお前が傷つくのも嫌なんだよ! 分かってくれよ!(超早口)」 「…あの、2人とも、話の途中で悪いのだけれど」 「う」 「う」 突如割り込んだ雪ノ下の声に、テンパッて頭に血が上りまくっていた俺達2人は一気にクールダウンさせられる。 珍しく困ったような表情をしている雪ノ下が指差している先を見ると、海老名さんに戸部、葉山達が全員揃って俺達2人を注目しているのに気付いた。 いつの間にか大声で言い合っていた俺達の会話はきっちり皆に聞かれていたらしい。 それを理解した途端、クールダウンしたはずの頭はあっという間に再沸騰する。 由比ヶ浜も顔を覆ってしゃがみ込んじゃってるし。 戸部の告白もすっかりストップしていたようだ。 これはあれだな、意識の外から全部をひっくり返すような出来事をぶつけられると、一瞬で場の空気が変わってしまうと言うやつだな。 海老名さんも戸惑っていたが、すぐに正しい答えを出してきた。 こちらに向かってスタスタと歩いてくると、由比ヶ浜の両手を握ってこう言った。 「結衣、頑張って! 私には男女交際とかよく分からないし、今は誰かと付き合う事なんて全然考えられないけど、友達の事は応援するよ! ヒキタニくんも大変そうだけど頑張ってね!」 混乱した由比ヶ浜はカクカク頷くことしか出来ていないが、 言いたいことだけ言うと、海老名さんは満足そうに小走りで去ってしまった。 「ええー、海老名さん、そうなんー? でも今はって言ってたし?」 「まだ時期じゃないってことだろ。 今はこの関係を楽しんでおくのもいいんじゃないか」 向こうでは我に返ってブツブツつぶやいている戸部を葉山がフォローしている。 上手いなあいつ。 どうやら結果的に問題は解決出来てしまったようだ。 俺の自爆と引き換えに。 葉山は去り際、俺にだけ聞こえるように小さく言った。 「ありがとう」 「いや、お礼言うんじゃねぇよ。 俺どうすりゃいいんだよ?」 「…頑張ってくれ」 その表情はまるで微笑ましい物を見るかのようだった。 見下されているわけでも嘲笑われているわけでもない。 ただ慈愛に満ちた優しい笑顔を向けられていた。 羞恥心で飛び出しそうになる心臓を拳で押し留める。 葉山が俺の前から去っても、あの生温かい眼差しが克明に焼き付いていた。 皆が去り、残っているのは、俺と雪ノ下、由比ヶ浜だけだ。 由比ヶ浜はまだ顔を押えてあうあう言っているし、雪ノ下もどう言葉をかけたものかと困惑しているようだ。 どうすればいいのか分からない俺は、 ただ天を仰いだ。 ホントにこれからどんな顔して部活に出ればいいの? それ以前にここからどんな顔して宿に戻ればいいの? いくら問いかけても天から答えは降ってこない。 まさかこんな結末になるなんて思わなかった。 ああ、…やはり、俺の青春ラブコメはまちがっている。 【ボツネタ・バッドエンド編】 「…あの、2人とも、話の途中で悪いのだけれど」 「う」 「う」 突如割り込んだ雪ノ下の声に、テンパッて頭に血が上りまくっていた俺達2人は一気にクールダウンさせられる。 「ご、ごめんなさい、とべっち;」 「…えーと、やっぱりあいつらをフォローする作戦を考えないと駄目…か?」 と言ってはみたが、正直無理ゲーとしか思えない。 どうすりゃいいんだ一体。 やっぱり取り返しのつかない一言ってのはあるものだ… …やはり俺に青春ラブコメのサポートはまちがっている。 あいつ…遅刻か? そう思ったところで、珍しく俺の携帯が鳴った。 バカは風邪をひかないと言うのはただの都市伝説だったか。 文面からしてあまり心配の必要は無さそうだ。 まあ、べ、別に特に心配とかしてなかったんだけどな! そう思いながら教室内を見ると、三浦と海老名さんも同じタイミングで携帯を確認していた。 BCCで一斉に送信したわけだな。 今頃は雪ノ下にもメールが届いていることだろう。 そんなことを考えていると、うっかり三浦と目が合ってしまった。 由比ヶ浜がいないせいなのか三浦はやけに不機嫌そうだ。 危険を感じた俺はすぐに顔を逸らす。 危うきに近寄らない俺、マジ君子。 本当に、こちらから近寄る気は一切無かったのだが… 放課後、部室に向かおうかと荷物をまとめていた俺のところに、どうしたことか三浦の方から近づいてきた。 「ヒキオ、ちょっとこれから付き合ってくんない?」 …は? それが交際の申し込みなどでは無い事は誤解の余地も無かったが、三浦が俺に用とはどういう事だ? 「結衣ん家、見舞いに行きたいんだけど、道がわかんないわけ」 ああ、そういう事か。 「…意外だな。 知らなかったのか」 「遊ぶ時はいつも外だったし、パーティーとかする時はあーしん家だったわけ、結衣ん家は行ったこと無かったのよ」 なるほどそれは分かった。 だが、何故俺に聞く? 疑問に思ったところで、また携帯が鳴った。 「まあ地図くらいなら書くけどよ」 「はあ? 地図とか読めないから。 案内してよ」 えーーー……… 由比ヶ浜の見舞いってだけならともかく、三浦と一緒にって、どんな拷問だよ。 海老名さんはどうなんだと思ったが、その海老名さんは三浦の後ろで無理無理と手を振っていた。 そっちも地図駄目なのかよ。 雪ノ下が方向音痴なのは分かっていたけど、こいつらまでとは。 女は地図を読めないとか、都市伝説じゃなかったの? 「だが、俺もあいつん家のマンションの前まで送った事があるだけだぞ。 部屋番号までは分からん」 「あ、住所は分かるから」 と海老名さん。 …そうですか。 ほとんど諦めながら、俺は最後の抵抗を試みる。 「地図書くから葉山に読んでもらえば?」 「いくら隼人でも、女の家の場所を勝手に男に教えられないっしょ? 大体隼人部活だし」 とても正論でした。 でも、俺も男だし、俺も部活なんですけどね。 俺は最初から家を知ってるんだから当てはまらないのは分かってるけどよ。 あと、俺って前に本人の了承無しに雪ノ下の家まで見舞いに行ってるじゃないかと気が付いてしまったが、まあ黙っておくか。 「比企谷くん」 ため息を付いていたところで、廊下の方から俺を呼ぶ声に気が付いた。 雪ノ下だ。 …うっすら展開が読める気がしながら、三浦を待たせて雪ノ下の前に向かう。 「由比ヶ浜さんが風邪と言うことなのだけれど、お見舞いに付き合ってもらえないかしら」 … … …やっぱりか。 「…由比ヶ浜の家、分からないのか?」 「由比ヶ浜さんがうちに来てくれたことは何度かあるけど、逆は無かったのよ」 「まあ、あいつの家、犬がいるしな」 「… 由比ヶ浜さんの住所は分かるのだけど、その、ちゃんと着けるかどうか、少しばかり確実性が足りない気がするのよ」 犬の事には触れないあたり、やっぱりまだ犬は苦手なようだ。 地図を持っていたとしても、こいつでは自力で由比ヶ浜の家に辿り着くのが難しいのは確かだろう。 しかしなあ… 「三浦からも由比ヶ浜の家に案内しろって言われてるんだが」 「…そう」 元々硬めだった雪ノ下の表情が更に硬くなる。 そんな中、 「一緒に行けばいいんじゃない」 脳天気に海老名さんが言った。 だが、雪ノ下と三浦はあまりに犬猿の仲過ぎるぞ。 目の前で喧嘩でもされたら余計に由比ヶ浜の熱が上がりかねない。 「…無理だろ?」 「…あーしは構わないけど」 「…私も、構わないわ」 構わないのかよ。 「…分かった、案内してもいい。 ただし、お前らが喧嘩しないのが条件だ。 言うまでもないが、病人の前で喧嘩は御法度だからな」 「…分ーってるわよ」 「…分かっているわ」 不承不承と言った様子で2人は了承するが、とても不安だ。 「大丈夫大丈夫ー」 へらっとした海老名さんの軽い言葉も余計に不安を掻き立てる。 現実逃避したい気分になった俺は、雪ノ下と三浦が犬猿なら海老名さんはキジかな…、などと考えていた。 雪ノ下と三浦で犬と猿ならどっちが犬でどっちが猿かね。 やっぱり犬が苦手な雪ノ下の方が猿か? こんなこと言ったら殺されそうだけどな、俺。 … … … 平塚先生に部を休みにする了解を得た後、4人で学校を出た。 俺の自転車は仕方がないので置いて帰ることにする。 RPGのパーティーのように俺、雪ノ下、海老名さん、三浦の順で縦に並んで歩いていく。 海老名さんが一応は緩衝材になってくれてはいるが、キリキリと張り詰めた空気の重さは無視しようがない。 雪ノ下と三浦はさっきから殆ど口を開かずに黙ったままだ。 何かを言えば喧嘩に成り兼ねないと、2人とも分かっていて自重しているようだが、一緒に歩く方はたまったものではない。 もう泣きそうだよ、俺。 これなら三浦と2人きりで見舞いに行く方がまだマシだったとすら思えてくる。 この氷の女王と獄炎の女王の両方と仲良く出来る由比ヶ浜の凄さをあらためて実感してしまう。 氷と炎を制御するとか、あいつメドローアでも使えるんじゃないの。 そして、この2人の間でいつもどおりにマイペースでニコニコしている海老名さんはやっぱり空恐ろしかった。 胃が痛くなってきた俺は、耐え切れずに現実逃避することにして携帯を出した。 午前中寝てたら大分楽になったよ FROM 八幡 TITLE Re2 それは良かったな。 これから見舞いに行く。 て言うかお前、男が家を知ってるとか迂闊に人に伝えるなよ。 ところで雪ノ下も道が分からないと言うので一緒に行くことになった。 三浦との間の空気が重い。 考えてみりゃ、雪ノ下と三浦で時間をズラせば良かったか。 お前も覚悟しとけ。 ところでお前、全然元気そうだな。 由比ヶ浜とのメールが一段落して周りの様子を見ると、海老名さんが雪ノ下に熱心に話しかけているのに気が付いた。 はやはちとか、ざいはちとか…、本当にブレませんね。 海老名さん。 こんな状況、ずっと気付きたくなかったよ…; 「ほら、海老名、カタギさんに迷惑かけるんじゃないし、ちゃんと擬態しろし(べしっ!)」 見兼ねた三浦がフォローに入ってくれた。 三浦ってもしかしてマジでいい奴なんじゃね? 「あ、ありがとう、三浦さん」 「ああ…、いーよ、別に」 礼を言う雪ノ下相手に三浦が照れていた。 何これ微笑ましい。 雪ノ下と三浦の間の空気がわずかに柔らかくなったようだ。 まさか、これも計算のうちか海老名さん!? 「ああ…、せっかく雪ノ下さんに布教出来ると思ったのに…」 …そんなことは全然無かったようだ。 … … … そうして俺たちはようやく由比ヶ浜の家に辿り着いた。 実際以上に体感時間が長かった気がする。 ああ疲れた…。 「やっはろー! みんな、来てくれてありがとう!」 玄関前に立った俺達4人を、部屋着にセーターを着た由比ヶ浜が迎えてくれた。 頬はまだ少し赤いが元気そうだ。 「ほらよ、プリンだ。 周りを見ると雪ノ下も三浦も由比ヶ浜の様子に苦笑していたが、2人の間の空気は更に柔らかくなったようだった。 意図してのことでは無いだろうが、こうしたところはやっぱりたいしたものだと思うよ、由比ヶ浜は。 「さあ中に入って。 あまり散らかっては無いと思うから。 たぶん」 多分かよ。 照れ笑いする由比ヶ浜に案内されてリビングに入ったところで、さっきまで隣にいたはずの雪ノ下が俺の背後に移動していることに気が付いた。 そこに… 「ひゃん!」 俺の腹に茶色い弾丸が突き刺さる。 お前ってやつは…。 「比企谷くん、あなたがいてくれて本当に良かったと思うわ」 全然嬉しくないぞ、そのセリフ。 それからしばらく俺達は、雪ノ下が入れた紅茶を飲んだり、俺がサブレにベロベロなめられたり、海老名さんが腐ったり、三浦が由比ヶ浜をからかったりして過ごしたが、 「病人相手にあまり長居をするわけにもいかないわね」 との雪ノ下の言葉により、そろそろ帰ろうかとの話になった。 「と、帰る前に」 三浦がニヤリと微笑みながら言う。 「せっかくだし、結衣の部屋が見てみたいかなー」 「えええ!? 「俺はここでサブレと留守番してるから、女子だけで行ってくれて構わないぞ」 俺だって、同性相手ならともかく(戸塚除く)、いきなり女子(戸塚含む)に片付いていない部屋を見せろと言われたら困るしな。 「う、うん、分かった。 ごめんねヒッキー」 「分かってるじゃん、ヒキオ」 「比企谷くん、あなたにもデリカシーというものがあったのね」 女子組は好き勝手に言って由比ヶ浜の部屋に向かって去っていった。 じゃあ俺はサブレと遊ぶかね。 …ヘー…ガユイノヘヤカー… …アハハ、…チラカッテルネー… …イワナイデヨ!… 奥の方から断片的に声が聞こえてくる。 お前らもうちょっと声落とせよ。 盗み聞きしてるみたいでバツが悪いじゃないか。 仕方ないからサブレの声にでも耳を傾けてみるか。 そう思って久々にイヌリンガルを立ち上げてみる。 「ひゃん!」(遊んで!) 「お前は変わらないなあ、癒されるわ」 …アレ、シャシンタテ、タオレ…テ…ヨ… …ワー、ソレハー… …ソノバショハ…、キヨミズ…ブタイカシラ… …アー、アノトキ……ーショットカー… 何か心当たりのある単語が聞こえた気がしたが、無心だ、無心でサブレを撫でるんだ。 あーよしよしよし… 頬が熱くなって胸のあたりがドキドキしてきた気がするが、まさか風邪がうつったんじゃないだろうな。 しばらくすると女子4人がリビングに戻ってきた。 由比ヶ浜の顔がまた赤くなっている気がするが、ホントに風邪は大丈夫か、お前? あと、皆さん揃って意味ありげな目で俺を見るのは止めてもらえませんか? … … … 由比ヶ浜の家を出て、方向が違う三浦と海老名さんとは駅で別れた。 「ヒキオー、今日は助かったわ」 去り際の三浦の言葉に、俺は意表を突かれて一瞬目をパチクリさせてしまった。 まさか三浦に礼を言われる日が来るとはな。 俺と同じ方向の雪ノ下は静かに三浦達に手を振っていたが、こいつと三浦もほんの少しは近づけたのだろうか。 「由比ヶ浜さん、明日は出てこられるかしらね」 「どうだろうな、もう治ったと思って無茶しなけりゃいいけどな」 そう話したところで俺と雪ノ下の携帯が同時に鳴った。 本当に、無理はしないでくれよ、由比ヶ浜。 蛇足かと思いましたが、その、なに。 せっかくだし。 「と、帰る前に」 優美子がニヤリと微笑んで言った。 「せっかくだし、結衣の部屋が見てみたいかなー」 「えええ!? 今あたしの部屋は、ベッドのシーツはめくれてるし、服や雑誌は散らかってるしで、とてもお客さんを呼べるような状態じゃないんだ。 普段ならもうちょっと片付いてるんだけど…(本当だよ。 たぶん)、熱出して寝込んでたんだし、仕方ないじゃないかあ。 まあ、優美子やゆきのんや姫菜が相手なら、女同士だし多少恥ずかしいところを見られても我慢できるけど、今日はヒッキーもいるんだよ。 でも、あたしが困っていることを察してくれたのか、ヒッキーは自分から言ってくれた。 「俺はここでサブレと留守番してるから、女子だけで行ってくれて構わないぞ」 …やっぱりヒッキーって気を使えるし、優しいよね。 えへへ… 過去に彼を振った女の子達は見る目が無いなあと思うけど、あたし的にはそれで助かったかも。 こんな事思ったらヒッキーに悪いんだろうけどね。 「う、うん、分かった。 ごめんねヒッキー」 「分かってるじゃん、ヒキオ」 「比企谷くん、あなたにもデリカシーというものがあったのね」 優美子もゆきのんも好き勝手に言ってるけど、この2人はキツイ事を言っても嫌味が無いところがあたしは好きだ。 それに今のは冗談口だったしね。 そうしてあたしは優美子、ゆきのん、姫菜と一緒に部屋に向かった。 女の子同士なら多少恥ずかしくても我慢出来ると言ったけど、やっぱり最低限は格好つけることを許して欲しい。 「ごめん、1分だけ待って。 えーと、映画のセリフだっけ。 あのお婆さん好きだったな。 1人で部屋に入ったあたしは、大急ぎでシーツの乱れを直して、ちらかってる服を物入に押し込めて、雑誌を部屋の端に積み上げた。 あと、アレをどうにかしなくちゃ… 「結衣、まだー?」 うう、もう1分過ぎちゃってるよ。 仕方がないからアレは伏せるだけで済ませて棚に置いておいた。 気付かれませんように… 「へー、これが結衣の部屋かー」 優美子が感慨深そうな声を出す。 そんなに珍しい部屋でも無いと思うんだけどな。 まあ、あたしも友達の部屋に行ったらテンション上がるけど。 「あはは、ちらかってるねー」 遠慮無く言う姫菜に、あたしも遠慮なく叫ぶ。 「言わないでよ!」 ゆきのんは部屋にあった小さな犬のぬいぐるみを見て後ずさっていた。 ぬいぐるみでも苦手なんだ。 猫やパンさんのぬいぐるみが無くてごめんね、ゆきのん。 でも、そんなゆきのんでさえ可愛く見えてしまうのが不思議だ。 「いや、あの、別に怖いわけではないのよ」 慌てて手を振って言い訳するゆきのんも可愛くてキュンとしてしまう。 ヒッキーはゆきのんを怖いだとか氷の女王だとか言うけど、こんなに可愛いのに失礼だよね。 まあ、叱られた時はあたしも怖いんだけどさ。 しばらく皆で喋ってたけど、あんまりヒッキーを待たせておくのも悪いしそろそろ戻らないとね、と思った時、 姫菜が足元の雑誌を避けて少し棚にぶつかってしまった。 「姫菜、大丈夫?」 あたしは心配して姫菜に駆け寄る。 特に怪我とかは無さそうだけど。 「あはは、ごめんごめん、私は平気だけど棚の物は大丈夫かな。 「「「あ」」」 皆が沈黙して呼吸を止めて1秒、そこに写っている内容に気付いた姫菜は即座にパタンと写真立てを伏せてくれたが、3人ともにキッチリ見られてしまったようだ。 「その場所は、清水の舞台かしら。 清水寺、いいところだったわよね…」 状況をごまかそうとしてくれている気遣いなのか、ゆきのんは冷静な声で言う。 て言うか、遠目に一瞬見ただけの写真で、よく場所まで特定出来たね! 「あー、あの時の、ヒキオとのツーショットかー」 ゆきのんの気遣い ? が台無しだよ優美子!? 優美子のハッキリしたところ好きだけど、好きだけどさ! て言うか、ツーショット写真撮ってたのバレてたんだね…、当たり前かもなんだけどさ! 「あううー;;;」 嘆くあたしに頭をかきながら優美子は言う。 「結衣、あまり気にすんなし。 どうせバレバレだったし」 「バレバレだったの!?」 驚愕したあたしの言葉に3人が揃って沈痛な表情で頷く。 恋愛に興味無さそうなゆきのんにまでバレてたんだ…、恥ずかしい……。 「でも、気付いていたのはヒキタニくんの事も知ってる身近な人だけだと思うよ。 男子は分かってないだろうし。 …葉山君は気付いていそうだけど」 うう…、フォローありがとう姫菜。 最後のあまりフォローになってない気がするけど。 「だけど…」と、姫菜は真面目な顔になって言った。 「ヒキタニくんは、なかなか難しそうな人だと思うよ」 「うん…、分かってるよ」 それでも…、あたしはこっちから行くって決めたんだ。 「あーしは…、正直ヒキオのどこがいいのか分からないけど、邪魔する気も無いよ」 「うん、ありがとう、優美子」 優美子は素っ気ない口調だったけど、あたしを気遣ってくれている様子が感じられて嬉しかった。 「あいつが結衣を泣かせたら、多分怒るけどさ」 「あはは…」 …もう泣かされましたとは、ちょっと言えない。 そして、ゆきのんは 「比企谷君は、一般的に考えれば全くお勧め出来ないし、美点よりも欠点の方がはるかに多い男だけれど、あなたはあなたの望む通りに進めばいいと思うわ。 …決めてるんでしょう?」 優しく微笑んで言ってくれた。 「ゆきのん…」 思わず胸が詰まる。 勘違いかも知れない。 本当にそうなのかも知れない。 いつかそのことを2人で話さないといけない日が来るかも知れない。 それでも、今はあたしを大事に思ってくれている彼女の気持ちが嬉しかったし、あたしも彼女を何よりも大切だと思った。 「さて、そろそろ戻らないと比企谷君が痺れを切らしてるわよ」 はっ、そうだった。 でも 「…今、ヒッキーの顔、まともに見れそうにない…」 うう…、あたしの顔、今どれくらい赤くなってるんだろ。 「大丈夫だって、顔が赤くても風邪のせいに出来るよ〜」 姫菜が適当な調子で慰めてくれる。 「観念しな。 行くよ」 「あう」 優美子に引っ張られてあたしはリビングに戻ることになった。 リビングではヒッキーがサブレを撫で続けていた。 虫だ…虫だ…とかつぶやいてるけど、まさか、サブレにノミでも付いてるの??? ショックだ…、またシャンプーしてあげなきゃ… 「ヒッキー、戻ったよ」 まだヒッキーに向き合うのは恥ずかしいけど、出来るだけ普段通りを意識して声をかけた。 ちゃんと普通に出来てたかな? ヒッキーはハッとしてあたしの方を見たけど、いつものようにすぐ目を逸らす。 ヒッキーの顔がちょっと赤い気がするよ。 もしかして風邪うつしちゃったのかな。 咳はしてなかったんだけどな。 ゆきのんや優美子や姫菜にはうつしていないだろうかと隣を見ると、3人とも大丈夫そうだったけど、3人揃ってヒッキーの方をじっと見ているのに気がついた。 物言いたげなような、優しげなような、値踏みしてるような、ニヤついているような、ただ静かに見つめているような…、 それぞれ複雑そうな思いが混ざった目に見えたけど、どう考えてもみんなさっきの事を意識してるよね。 …お願いだからいつも通りにしてよー そうメッセージを込めたあたしの視線に気付いたのか、3人ともすぐにハッとしていつもの表情を取り戻してくれた。 良かった…、ヒッキーにおかしく思われたらどうしようかと思った。 玄関でみんなを見送る時、気になってヒッキーに聞いてみた。 「ヒッキー、もしかして風邪うつしたりしてない? あたしが学校行ったら今度はヒッキーが休んでたりしたら困るよ」 「え? いや…、別に大丈夫だと思うぞ」 確かに、さっきと違ってヒッキーの顔は普通に見えた。 ただの勘違いだったのかな。 「それじゃ、おいとまするわ。 今日はちゃんと早く寝るのよ」 「結衣、ちゃんと暖かくしときな」 「今度は学校でね〜」 「じゃあな」 そうしてみんなは帰っていった。 さっきまで賑やかだったのに、急に静かになってしまってちょっと寂しい。 「ひゃん!」 あたしの寂しさを分かってくれたのか、サブレが近づいてくる。 「慰めてくれてるのかな。 ありがとね」 「ひゃん!」 イヌリンガルがあったら、今サブレが何を言ったのかも分かるのかな。 早くきっちり風邪を治して学校行かないとね、と思ったけど、 休む前に、サブレにノミが付いていないかだけチェックしておこうかな。 しばらくサブレにブラシをかけて調べてみたけど、特にノミは見つからなかった。 ヒッキーが言ってたのは何だったんだろう。 まあいいや、今日はちゃんと休んでおこう。 そうだ、寝る前にみんなに決意表明をしておこうかな。 送っちゃったからには書いたことを守らないとね。 携帯を畳んで、小町ちゃんにもらった写真立てを元の場所に置き直して、あたしはベッドに入った。 また明日も、ゆきのんと、優美子と、姫菜と、そしてヒッキーと学校で会えますように。 おやすみなさい。 穏やかな笑顔で雪ノ下がエントランスの外で見送ってくれる。 「みんな、よいお年を」 「ゆきのん、また来年ね! よいお年を!」 パーティーは奉仕部の3人に加え、小町、戸塚、平塚先生、あと…材木座に、珍しいことに川崎姉弟も参加して行われた。 生徒会選挙の時にも世話になったからな。 材木座については、果たして雪ノ下の家に入れてしまっていいのだろうか由比ヶ浜と悩んだが、 雪ノ下当人との「まあいいわ、ざ…財津くんに何か悪さをする勇気は無いでしょうし」「ふひっ!」とのやり取りで参加が認められた。 断ろうとすると捨てられた巨犬みたいな目で見るのが鬱陶しかったしな。 実際あいつに雪ノ下に何かする事は出来ないだろうし。 小町は受験生だが、勉強の息抜きくらいさせてやりたかったし、クリスマスくらいはいいだろうと言うことで参加することになった。 パーティーに出る為に頑張って勉強してたしな。 だが大志、なんでお前は来てるんだよ、勉強してろよ! 「酷いっす、お兄さん! 受験勉強の息抜きくらいさせて欲しいっす!」 「あんた、うちの弟に何か文句あるの?」 「いや、別に文句は無い。 クリスマスだからと言う油断が受験生の生死を分けるんだ。 俺はお前を心配して言ってるんだぞ、大志」 「お兄ちゃんって本当に相手によってコロコロ態度を使い分けるなー」 平塚先生は、何故か普通に参加していた。 「平塚先生、イヴなのに良かったのかな」 「しっ、声を落とせ由比ヶ浜、何も言ってやるな」 「うっ! ううっ…、うわあああああああああああああああああああああああああああん!」 などといった具合に、多少のアクシデントを挟みながらも概ね和やかないいパーティーだった。 そう言っていいんだよな? たぶん! 捻くれ者の俺だが、今年のクリスマスは素直に、心穏やかに楽しめたのではないかと思う。 「じゃあね、みんな。 よいお年をね!」 挨拶しながら戸塚が電車を降りていった。 既に他の面々もそれぞれの帰路についていて、残ったのは俺と小町と由比ヶ浜だけだ。 そして、由比ヶ浜の降りる駅まであと少しというところで小町が言った。 「お兄ちゃん、大分遅くなっちゃったし、結衣さんを家まで送ってから帰ろうよ。 夜道を女の子1人で帰らせちゃ危ないからね」 …こいつ、また企んでるよ。 でもまあ、確かに深夜だし、反対する理由は無い。 「まあそうだな、送ってくわ」 「わ、あ、ありがとうヒッキー、小町ちゃん」 「別に気にす…、はっ、そ、そう言えば!」 「どしたのお兄ちゃん?」 「戸塚を1人で帰らせちゃったじゃねえか。 小町、どうしてそれさっき言わなかったんだよ。 やばいよ、大丈夫かな戸塚!?」 「だ、大丈夫だよ、戸塚さんだってちゃんと男の人…?、なんだから」 「え、あれ、戸塚って男だっけ? うう、心配だ…、戸塚ぁ…」 「ヒッキーってば…」 あははと由比ヶ浜が苦笑すると同時に駅に着いた。 駅から由比ヶ浜の家に向かって3人で歩いて行く。 …と言っても、小町は真っ赤なお鼻の鼻歌を歌いながら、1人で少し先を歩いているんだがな。 余計な気を効かせやがって。 「ねえ、ヒッキー」 「なんだ?」 歩きながら、由比ヶ浜が口を開いた。 冷たい夜空の下でその息は白かったが、その口調は暖かかった。 「休みに入る前に、ちゃんとゆきのんと仲直り出来て良かったね。 クリスマスパーティーもみんなで出来て、本当に良かった」 「そうだな」 修学旅行や生徒会選挙から続いた奉仕部のゴタゴタをクリスマス直前になんとか乗り越えられて、俺も正直ホッとしていた。 思い返せば、俺も、雪ノ下も、由比ヶ浜も、それぞれが少しずつ間違えていたのが今からすれば分かるが、この一ヶ月余りを通して俺は果たして変わったのだろうか。 自分ではよく分からない。 だが、クリスマス故の気まぐれなのかも知れないが、今の俺は、こいつや雪ノ下との関係が大事だと、素直に認めてもいいと思えていた。 だけど、そんな事はもちろん俺は素直に口には出せない。 なにしろ捻デレらしいしな。 だから俺は、全然関係無い話を口にする。 「なあ由比ヶ浜、お前、大学はどうするつもりなんだ?」 「へ? 突然だね」 確かに突然で何の脈絡もない話で、由比ヶ浜は目をパチクリさせている。 「えーと、その、私立文系に行けたらいいなあって思ってはいるんだけど。 その…、出来たら…一緒の(ゴニョゴニョ…)」 「…もうちょっと大きな声で言ってくれないと、最後聞こえなかったんだが、まあいい。 で、成績はどうだったんだ?」 「えー、せっかくクリスマスで冬休みなのに成績の話するの?」 由比ヶ浜は嫌そうにジト目で俺を睨むが、構わず続ける。 「まったくこの子は、親に通知表見せないと冬休みは始まらないでしょ! 休みだから勉強の話すんだよ。 いいから言ってみ」 「えーと、…くらいだけど、順位が…くらいで」 小町に成績の話を聞かれるのは恥ずかしいのか、由比ヶ浜は俺の耳元に口を寄せて小声でぽしょぽしょ囁いた。 あの、耳がこそばゆいんですけど。 そんな俺達の様子に気付いた小町は少し離れてニヤニヤしてやがる。 こんなところを見られる方がよっぽど恥ずかしいと思うんですけどね、由比ヶ浜さん。 まあいい、話を進めよう。 「前よりはだいぶ上がったみたいだが、まだまだだな。 お前…、本気で受験目指すなら予備校行けよ」 「う、うん。 やっぱりそうすべきかなー、あはは;」 神妙そうにごまかし笑いをする由比ヶ浜、なかなか器用だな。 「あと、分からんところがあったら教えてやる。 文系限定だがな」 「ほ、ホント!? そっか、ヒッキーが教えてくれるなら、本当にやる気出さなきゃいけないよね」 「今のままだと、同じ大学とか無理だしな(ボソ)」 「え? ヒッキー、今なんて…?」 う…、思わず言わなくていい言葉が漏れてしまった。 「いや、別に何でも無いぞ?」 「お兄ちゃんと結衣さんが同じ大学かー。 それいいね、お兄ちゃん!」 ひょいと横から小町が口を出した。 お前いつの間に近寄ってたんだよ。 つーか、言っちゃうなよ。 「ヒッキー…、もしかして、同じ大学に行きたいって思ってくれてるってこと?」 てれりてれりと上目遣いで俺を見ながら由比ヶ浜は言う。 「ば、馬っ鹿、ちげーよ。 え、えーとだな、例えばの話だよ。 俺の目指すレベルの大学に行こうとしたら、お前じゃまだまだ厳しいなって言ったんだよ!」 「そっか…、ふふ…、よーし、ヒッキーと同じレベルの大学に行けるように頑張る!」 「おう、頑張れ、相当無理して頑張らないと無理だけどな。 休み中ちゃんと勉強しろよ」 「はうっ! わ、分かったよ…」 涙目になった由比ヶ浜だったが、かと思うと不意に表情を変えた。 「勉強するから…、分かんない時は電話していい? その、メールだとそういうの面倒だしさ」 「あ…、ああ、文系ならな」 「そっか。 へへっ、ありがと!」 こいつと一緒の大学生活か、大学でもどうせ俺はぼっちだろうが、それでもこいつと過ごす学園生活は楽しそうに思えた。 もし同じ大学が無理でも、近くの大学に行ければこいつとの繋がりも切れずに済むかもな。 人との繋がりを自ら保ちたいと願っている自分に驚きながら、俺はそんなことを思った。 俺は長い間、彼女から感じられる想いは勘違いでは無いかと自分を戒めていた。 「こっちから行くの」、そう言われてからさえも、不確かさゆえに自分から動き出すことは出来なかった。 だが、そもそも「彼女からどう思われているか」に拘る俺は何なのだ。 もしも本当に彼女から好かれているとして、彼女のことが気にかかるのは、中学の頃のように「好かれているかも知れないから」だけなのか? その答えは未だに分からない。 陽乃さんにも指摘されたように、俺は人の気持というものにひどく疎い。 自分の感情すら正しくは分からないのだ。 だけど、あの時、ただ傷ついてほしくないと思った彼女と、俺はきっと、離れたくは無いのだと、そう思った。 まあ、そんな事は、今の俺にはまだとても口に出せないんだけどな。 かわりに俺は軽口を叩く。 「お前さ、やっぱり生徒会長にならずに済んで良かったんじゃないの。 生徒会なんてやってたら、勉強時間も減って浪人確定だったぞ。 今でも危ないけどな。 下手すりゃ留年まである」 「え〜、留年までは無いよ、たぶん!」 「…たぶんなのかよ」 「それは、言葉のアラなの! 馬鹿にしすぎだからぁ! もう怒った、絶対見返してやるんだから!」 「…もしかして、言葉の綾って言いたかったのか?」 「もーーーーー!!」 喋るほどにボロが出る由比ヶ浜は、真っ赤になってプンスカ怒りながら俺の肩をポカポカ叩いてくる。 全然痛くないあたりが、やっぱり優しいよな、こいつ。 選挙の話もようやく冗談として言えるようになった事にホッとしつつ、笑いをこらえながら俺は言った。 「まあ、それなりに期待しとくわ」 そうこうしている内に由比ヶ浜のマンションの前に着いた。 由比ヶ浜は少し名残惜しそうな表情を見せたが、すぐに元気に手を振った。 「じゃあまた連絡するね。 ヒッキーも小町ちゃんも、よいお年を!」 「ああ、よいお年を、由比ヶ浜」 「よいお年を、結衣さん!」 1年以上後の事どころか、明日がどうなるかすら分からない俺達だが、せっかくの年の瀬だ。 未来に思いを馳せてみるのもいいだろう。 小町と家路を急ぎながら俺は、誰かと共にいる、まだ見ぬ未来を夢想した。 短いですが。 タイトル通り八結です。 オチもありませんが、気が向いたらナンバリングして、また小ネタを出すかも知れません。 … … … 「やっはろー! あれ、ヒッキーだけ? …てゆーか寝てるし」 ZZZ… 「ゆきのんは…、あ、メール入ってた。 ふんふん、部長会議で遅れます、と。 そんなのあったんだ」 ぽちぽちぽち 「了解、ヒッキーと待ってるから大丈夫だよ、…と、送信。 …ヒッキー寝てるんだけどさ」 ZZZ… 「そういえば今日は眠そうだったもんね、夜更かしでもしてたのかな。 寝かせといてあげるか」 「えーと、かけるものないかな。 えーと(ゴソゴソ)、一応シーツはあったけど、ホコリ払ったら大丈夫かな?」 スピー… … … … 「ヒッキー、まだ寝てるの? 早く起きないかなあ」 「でも、寝てるとかわいいなあ、ふふ。 目を閉じてると目が腐ってるのも分からないし、結構かっこいいかも、えへへ」 「てゆーか、あたしなんで一人で喋ってんだろ。 傍から見たら変な人だよね。 …ヒッキーがいけないんだからね」 ZZZ… … … … 「ヒッキー、なに夜更かししてたんだろ。 小町ちゃんに聞いてみようかな」 ぽちぽちぽち 「ヒッキーがずっと寝てるんだけど、小町ちゃん何か知ってる?、…と、送信」 ぴりり 「…あ、返事来た。 …えーとね、ヒッキー…、その… …大好き …なんてね…、へへ」 「…聞こえて、…ないよね?」 ZZZ… … … … 「ヒッキーは覚えてないかな? 前にヒッキーに『俺のこと好きなの?』って言われたことあったよね。 優美子とテニスで勝負した時にさ」 「あの時はバカバカ言っちゃったけど、あたし本当はドキドキして心臓爆発しそうだったんだよ。 たまに思い出したらニヤけちゃったりなんかして、なんて、 …へへ、起きてたら言えないけどね」 「いつか、言いたいなあ…」 ZZZ… … … … 「ゆきのん遅いなあ。 ヒッキーも全然起きないし…、 まあ寝顔見てるだけなのも悪くは無いんだけど…」 ZZZ… … … … 「もー、本当にイタズラしちゃうよ? 小町ちゃんも何してもいいって言ってるんだからね? ほっぺに…ちゅーとか… …いや、…無理無理無理!」 ブンブンブン … … … 「…でも、指でつっつくくらいいいよね。 えい」 チョイチョイ 「あ、嫌そうな顔した。 かわいい」 クスクス ムー… … … … … … 「んん…」 「あ、やっと起きた」 「…ゆい…がはま? そうか、部室か。 …てか顔近いよ。 寝顔見てたのかよ?」 「た、たまたまだし! 起きそうだったから覗き込んだだけ!」 「そうか…、変な顔してなかったか?」 「へ? 全然。 目を閉じてると意外とかっこいい感じだったよ」 「お前、それ、目を開けてたら駄目って言ってるだろ」 「そんなこと無いよ! それに、あたしはヒッキーは起きてる顔の方がいいかな。 ホコリは払ったから汚くはない、…んじゃないかと思うんだけど」 「本当か…? でも、意外とあったかいな。 「ああ、疲れた…(主に帰宅後が)」 精神的疲労からズルズルと椅子に沈み込んだところで、不意に扉が開いた。 「お兄ちゃんお疲れ様〜」 現れたのはマイリトルシスター。 なんだ、俺を癒やしに来てくれたの? いいけど扉を開ける前にノックくらいしてくれませんかね、平塚先生2号になっちまうぞ。 いきなり部屋に入られたら困ることもあるんだからよ。 「それで、結衣さんとのデ…、いや初詣はどうだったの?」 …ブルータス、お前もか…。 そうボヤきながら思わず俺は天を仰いだ。 知ってる天井だ。 …いや、お前が一番状況を聞きたがるに決まってるよな。 分かってたよこんちくしょう。 「由比ヶ浜とは無事に初詣を終えた。 凄く混んでたが、はぐれもせずに無事だった。 帰りはちゃんと家まで送ったぞ」 「うん、お兄ちゃんえらい。 でも、それだけ?」 「ああ、言うことはそれくらいだな。 お守りとベビーカステラも渡しただろ。 …ああそうだ、新学期が始まったら雪ノ下の誕生パーティーをやるから、お前にも声がかかると思うぞ。 行きたきゃその分勉強しとけよ」 「うん、もちろん行く行く! 勉強はちゃんと今日もやってたよ。 えへん!」 「えらいえらい。 じゃあ話はそれくらいだな。 勉強がんばれよ」 「うん頑張る。 …って、それで終わりなわけないでしょ」 いきなり低い声で凄まれてしまった。 …ち、やっぱり駄目か。 こいつ、底が浅いからごまかせると思ったのに。 「駄目に決まってます」 「駄目ですか」 「駄目です」 「駄目でもいいから勘弁してくれないか?」 「駄目。 ここで終わりだと言うなら」 「言うなら?」 「お母さんに色々話す。 お兄ちゃんが結衣さんと2人きりで花火に行ったこととか、修学旅行でツーショット撮ったこととか」 「ちょ、ちょっと待て! 花火はともかく、なんで写真の事まで知ってんだよ!?」 「こないだのクリパで結衣さんに見せてもらいました、てへ」 「ゆ・い・が・は・まー…;」 頭を抱えてそのまま携帯を操作する。 3コール目で向こうが電話口に出た。 『は、はい。 どしたの? ヒッキーから電話してくれるなんて珍しいね。 あ、今日はお疲れ様ね』 「ああ、お疲れ様。 ところで由比ヶ浜さん。 何故か小町が修学旅行の写真の事を知っているのだけれど、いったいどういう事なのかしら?」 『何故モノマネだし。 …あ、あはは、怒って…る? その、ごめんなさい; 小町ちゃんには色々相談にのってもらってるし、ヒッキーの家族なんだからいいかなと思ったんだけど…、で、で、でも一応誰彼構わずは見せてはいないよ、…一応!』 …一応って、他にも誰か見せてしまった奴がいるのだろうか。 頭痛え…。 「そ、そうか。 いやまあ衝動的に電話してしまったけど、別に写真なんて人に見せちゃ駄目なわけじゃなし、怒ってるわけじゃないんだ。 驚かせて悪かった」 『う、うん、いや、その、こっちこそごめんね、あははははは…;』 怒ってないと伝えているのに、由比ヶ浜は何故かますます恐縮しているようだ。 「どうした? 本当に別に怒ってないぞ。 話したり見せたりする相手が小町なら別に問題は無いんだけどよ。 ただ、やっぱり恥ずかしいし心の準備もしたいから、そういう時には俺にも知らせてくれたらありがたいと、…おい、由比ヶ浜?」 『あ、あははははは…;』 おかしい、電話越しなのに焦りまくっている由比ヶ浜の姿が目に見えるようだ。 …もしかして… 「あの、由比ヶ浜さん、まさか、今日の事…」 『…ごめん、ヒッキー! 今日神社で姫菜と出会ってヒッキーとの写真をたくさん撮ってもらったこと、小町ちゃんに話しちゃった! ごめんなさい!』 … … … 「由比ヶ浜さーーーん!?」 『ご、ごめんなさい、ごめんなさい!!;』 小町の方を振り返ると、ひたすらニヤニヤしてやがる。 今日やけに追及がしつこかったのはそのせいか。 『ごめんなさい…』 あ、由比ヶ浜が本気でシュンとしてしまった。 いかんいかん。 「あ、いや、こんなこと別に本当に怒るようなことじゃないんだ。 ただ…、俺が恥ずかしいって…、それだけだから…orz」 『ごめんね、ヒッキー。 こういう話が出来るのって小町ちゃんだけだし、小町ちゃんにも聞いて欲しかったの…。 その…、嬉しかったんだもん。 …ヒッキーと写真撮れて』 … … … 頭の上で「プシュー」と音が聞こえた気がした。 この子、なんでこんな気恥ずかしいセリフが言えるの? こんなこと言われて文句とか言えねーよ。 ホッとしつつ、俺は電話を切った。 小町の方を見ると、ひたすらニコニコしてやがる。 もういいよ、あきらめたよ。 「ああ、分かったよ。 見せりゃいいんだろ、今日の写真」 「やった、お兄ちゃんポイント高い!」 もう、いくらでも俺を辱めるがいいさ…。 … … … 俺のスマホを手にして、海老名さんに撮られた俺と由比ヶ浜のツーショット写真をじっくり堪能していた小町だったが、しばらくするとムフーと鼻を鳴らした。 「満足したか?」 「うん、したした」 「じゃあそろそろ勉強…」 「でさ、お兄ちゃん」 えー、まだ続けるの? 「うん、お兄ちゃんはさ、結局のところ結衣さんをどう思ってるの?」 「…や」 「ま・さ・か、未だに誘ってくれるのは結衣さんが優しいからってだけだとか、思ってないよね?」 「えーとだな」 「思ってないよね?」 「えーと、黙秘権は?」 「沈黙は肯定とみなします」 ああもう、分かってるよ。 グループでの遊びとかならともかく、何とも思ってない男と優しさだけで2人きりで出掛けたりしないって言うんだろ。 だが…、俺の気持ちはどうなんだ? 「…正直、自分でもよく分からねーんだよ」 由比ヶ浜に対して感じるそれは、自分が好かれていると思い込んで、勘違いして自爆した中学の頃のものとは確かに違うのだろうとは思う。 だが、俺は未だに自分の気持ちに自信が持てない。 「俺は、きっと人の気持ちも、自分の気持ちも分かっていないんだ」 思わず漏らすつもりのなかった言葉が溢れてしまった。 いかんな、小町の前であまり暗い話をする気は無かったのに。 小町は一瞬寂しげな表情を見せる。 「そっか。 お兄ちゃんは…、ほんとにしょうがない人だね…」 だが…、それもほんの一瞬のことだった。 次の瞬間、ニヤリとした笑顔を浮かべた小町はこう言い放った。 イエスかノーで答えてください。 それで判定してみましょう。 あいつ目立つじゃん、髪の色とか。 だからどうしても目につきやすいんだよ」 「でも、お兄ちゃんって、結衣さんが初めて奉仕部に来た時まで結衣さんのこと知らなかったんでしょ。 同じクラスなのに」 「なんでそんな事まで知ってんだよ。 小町ちょっと安心したよ」 「いや、嫉妬とか違うから! ただ相手がナンパ野郎で俺の嫌いなタイプでそいつにムカついたってだけだから!」 「うんうん。 で、その時お兄ちゃんはどうしたの?」 「…俺が何をする間もなく、由比ヶ浜があっさり華麗に躱してた。 凄いなあいつ、みかわしの服でも装備してるのかね」 「さすが結衣さん。 でもお兄ちゃんはヘタレだねえ、ポイント低いよ。 そうして、その後も小町の詰問…、いや質問タイムは続いたのだった…。 何この一年の刑は元旦にあり。 … … … 「ふう、これで小町の質問はおしまいです。 お疲れ様、お兄ちゃん」 「本当に疲れた…、僕もう疲れたよ…、カマクラッシュ…」 「ニャー」 いつの間にか部屋に入ってきていたカマクラが返事をしてくれた。 この際お前でもいいから俺の癒やしになってくれ。 にゃんぱすー。 「それにしても、全問イエスじゃん。 これで自分の気持ちが分からないとか、好きかどうか分からないとか、まったくごみいちゃんは」 「いやいやいや、質問が作為的すぎるだろうが。 こんなの陰謀だ。 誘導尋問だ。 箇条書きマジックだ。 これ対象を小町や戸塚に置き換えても多分それほど変わらんぞ」 「う、うーん…、否定出来ないかも」 腕を組んで考えこむ小町。 「だろ、無意味な質問タイムだったな」 優位性を取り戻した俺はようやく一息を付くことが出来たのだった。 「でも、少なくともお兄ちゃんが結衣さんを大切に思ってることは証明出来たし、今回はそれで良しとするかな」 「…へ?」 「まったく後押しも大変だよ。 じゃあね、お兄ちゃん。 おやすみなさーい」 虚を突かれた俺が反論出来ないでいるうちに、小町は手を振りながら、言いたいことだけ言って部屋から出て行ってしまった。 あれー? 「…つーか、お前のは後押しじゃなくて、ドナドナって感じじゃねえかよ。 売られちゃうの、俺?」 「ニャー」 小町の去った部屋でカマクラ相手にようやく反論的なものを捻り出す俺。 後押しと言うより、俺を混乱させにきただけじゃねーの、お前。 はちまんはこんらんしている! 俺が自分の気持ちを認められるようになるには、まだ時間がかかりそうだ。 一年の最初からこの調子だとは、 まったく、やはり俺の正月はまちがっている。 由比ヶ浜さんに持ってくるように言われたのよ」 「えへへ、ゆきのんと見せ合いっこしようと思ってね。 えーと…、ヒッキーも見る? …ちょっと恥ずかしいけど」 「…俺が見たら問答無用で雪ノ下に罵倒されそうなんだが」 「別に構わないわ。 いやらしい目で見たと判断すれば即座に通報だけれどもね、ロリガヤくん」 「俺は仮にシスコン…いや妹想いだとしてもロリコンじゃねえ。 いやらしい目かどうかは誰がどう判断すんだよ」 「無論私が決めるわ。 目の腐り具合で判断出来るわね」ニッコリ 「無駄にいい笑顔で言うな。 それ、俺がどんな目で見ても有罪確定だろうが。 お前、将来絶対に裁判官や検察官にはなるなよ。 被告も原告も両方不幸に叩き落としそうだ」 「失礼ね。 叩き落とすのは敵対する相手だけよ」 「叩き落とすことは叩き落とすんだな…」 「あはは、まあいいじゃない。 ほらヒッキー、ちっちゃいゆきのん、可愛いでしょう」 「ふむ、雰囲気は今と変わらんな、そのままスケールダウンしたみたいだ。 目の冷たさとかまんまじゃねえか。 雪ん子時代でこの凍った目とはおそろしい子!」 「言ってくれるわね。 あなたの目も子供の頃からさぞや腐り落ちていたのでしょうね、落ちガヤくん」 「落武者みたいに言うな。 生まれたばかりで腐り落ちてたって俺は巨神兵かよ、早すぎじゃねえかよ」 「そうだっ! ちっちゃいヒッキーの写真も見てみたい! 今度持ってきてよ」 「嫌だよ恥ずかしい。 つーか俺の子供の頃の写真ってほとんど無いんだよ。 小町の写真ならいくらでもあるんだけどな」 「それって…」 「…」 「黙るなよ。 罵倒されるよりよっぽど悲しくなるわ。 で、こっちの写真はロリガハマさんか。 お前もあまり今と変わらんな。 笑い顔のアホっぽさとか」 「ロリって言うなし、ヒッキーマジキモい! あと、アホっぽくないし、ちゃんと成長してるし!」 (成長…)ジッ 「…な、なにかな?」 「…いや、なんでもありません。 おい雪ノ下、無言で携帯を取り出すんじゃない。 つーか、当たり前だが昔は黒かったんだな、頭」 「そりゃあ、染めたの高校に入ってからだし。 …変かな?」クシクシ 「え? いや、見慣れちまってるしな。 今の色もなんつーかお前には似合ってるんじゃねーの、ちょっとアホっぽいけど」 「一言多い! で、でも、似合ってる…か。 そっか…、えへへ」 「でもまあ、大人になってもその色のままだったら、ちょっとどうかと思うけどな」 「そうね、大学受験は筆記試験だけの学校なら大丈夫かも知れないけど、将来の就職は厳しそうよね」 「う…、そ、その頃にはもうちょっと大人らしい色にするよ! きっと!」 … … … 「じゃあ、私は鍵を返してくるから」 「うん、昇降口で待ってるから。 行こ、ヒッキー」 「おお」 … 「ところでさ、…ヒッキーは茶髪より黒髪の方がいいと思う?」 「え、いや別にどっちがいいとかは特に無いけどな」 「そーなの? 派手なのあまり好きじゃ無いのかなって思ったんだけど」 「うーん、前はそうだったかも知れんが、茶髪とかにも慣れちまったしな。 誰かさんのおかげで」 「あ、あはは、そ、そっか。 …えーと、ヒッキー、あたしが黒髪にしたらどうなるかって興味あったりする?」 「まあ…、正直ちょっと興味はあるけどな。 学生の間はあわてて戻さなくてもいいんじゃねーの」 「そっか、じゃあ…、大人になったらいつか見せてあげられるかもね」 「…大人になる頃に俺らの付き合いが続いてるかどうか分からんけどな」 「もう、悲観的なんだから。 続くよ。 ヒッキー、小町ちゃんどんな感じ? FROM 八幡 TITLE Re 頑張ってるぞ。 あいつ推薦は無理だったから、2週間後の一般入試が本番だ。 俺はたいして何もしてないけどな。 学校が推薦入試で休みなのは今日までだからな。 お前、忘れてうっかり休むんじゃないぞ。 明日が何の日かを考えれば思い当たることはある、あるのだが。 勘違い……、とか言ったらまた小町に怒られるんだろうなあ。 まあ、考えすぎるのは止めておくか。 眠れなくなりそうだし……。 … … … 「うす、来たぞ」 「あ、ヒ、ヒッキー、やっはろー!」 「由比ヶ浜だけか。 じゃあ今日は部活休みだな。 よし、帰るか?」 「帰らないし! ゆきのん図書室行ってるだけだし!」 「冗談だ。 睨むのは止めてくれ。 さっき雪ノ下とは廊下ですれ違ったしな」 (いい笑顔で『逃げないように』って言われちまったし) 「うー、ヒッキーてば。 ……ゆきのんには、ちょっと時間をもらったの。 その……、ヒッキーに用事あるから」 「お、おう。 で、……な、なんだ?」 「あの……、ヒッキーに、渡したいものがあるんだけど」 「あ、ああ……、そ、そうか。 今日は2月14日か」 「う、うん。 そ、そう……なの。 そうだから……」 「そうか……、えーと、2月14日と言うと…」 「う、うん……」 「……『ネクタイの日』だな。 ネクタイもらえるのか? 確かにうちの学校はブレザーだが、俺あまりネクタイ使ってないんだけどな」 「なにそれ!? そんな日知らないよ! て言うか違うよ!」 「じゃあ……、あれか。 『煮干しの日』だな。 持ち帰って家で食わせてもらうわ。 カマクラにも分けてやっていいか?」 「違うし! て言うかそんな日もあるの!? ええと2月14日で、2が『に』で、4が『し』なのは分かるけど、『ぼ』と1が繋がらないんだけど」 「1が『ぼう』ってことらしいぞ」 「そうなんだ。 ……って、違うよ! わざわざ2月14日に学校で煮干渡さないよ!」 「えー、じゃあ何なんだ。 ありがたくいただく。 ふーんだ、そうだよ、他の人にもあげてるもんね」 「……だよな」 「ゆきのんと優美子と姫菜にあげたよ。 あと……、もう1人だけ、男の人であげようか迷ってる人がいるんだけど、ヒッキー、どうしたらいいと思う?」 ジー 「……俺に聞くなよ」 「ふーんだ。 パパが欲しがってるみたいなんだけど、どうしようかなあ」 「おい。 そこは渡してやれよ。 お父さん可哀想だろ!」 … … … 「それで……、これなんだけど、どうぞ……、受け取ってください」 「おう、あ、ありがとう……」…ジワッ 「え、ヒ、ヒッキー、泣いてるの?」 「べ、別に泣いてねーよ。 目にホコリが入っただけだよ。 ……開けていいか?」 「う、うん。 どうぞ」 「チョコクッキーか。 お前が初めて奉仕部に来た時のこと思い出すな。 あの時のクッキーも黒かったけど、今回も黒っぽいな」 ハハ 「そりゃあ、今回はチョコだから黒くて当たり前だよ!」 「それじゃあ……」 ハム、ムグムグムグ 「ど、どうかな……?」 「うん、美味い。 ちょっと焦げてるけど、美味いわ。 ありがとな」 「そ、そっかあ。 例によって八結です。 微妙に9巻のネタバレが無いとも言えないのでご注意ください。 (ちなみに、) 一応、前に書いた「」の後で、「」の前の時点の話ということになっていますが、たいして内容の繋がりはありません。 … … … 「そういえばさ、クリスマスイベントの時の留美ちゃん、元気そうになっててよかったね」 初詣の後、雪ノ下の誕生パーティーの作戦会議と称して由比ヶ浜に喫茶店に連れ込まれて数十分、既に話題は移り変わって単なる雑談タイムと化していた。 俺を相手によくこれだけ嬉しそうに話せるものだと思いつつ、笑顔の由比ヶ浜はあの生徒会選挙後の空虚な時間とは違って無理して会話を続けている様子もなく、俺は安心感と暖かさを感じていた。 だから、つい油断して口が滑ってしまったのかも知れない。 「あー、留美か。 頑張ってくれてたよな」 まったくプロディーサー冥利につきるってものだ。 だが、ふと見ると目の前の由比ヶ浜がかたまっていた。 さっきまでニコニコしていたのに、今は妙に難しそうな顔をしている。 どうした、お前に難しい顔は似合わないぞ? 「……名前」 「へ?」 「留美ちゃんのことは名前で呼ぶんだね」 むーと唸りながら、由比ヶ浜は少しフグっぽく膨らんでいた。 しまった…、当人相手だと名前呼びするようになっていたため、そのまま第三者相手にも使ってしまった。 こいつ、俺を「小学生女子を名前で呼ぶロリコンめ! ヒッキーマジキモい!」、とか思ってるんじゃないだろうな。 「あー由比ヶ浜、あいつは名前で呼ばないと無視するから、仕方なく名前で呼ぶようになっちまったんだよ。 俺は悪くない。 言っておくが、俺はもしかしたらシスコンと言えなくもないかも知れないが、ロリコンじゃねーぞ」 由比ヶ浜が慌てた様子で答える。 「えーと、いや、別にそんな風には思ってないし、留美ちゃんを名前で呼ぶのはいいんだよ。 でも、ヒッキーが女の子を名前で呼ぶって珍しいんだもん」 マジですか。 俺をロリコン扱いしないガハマさんマジ女神。 これが雪ノ下だったらロリコン認定の上に犯罪者断定で通報確定なところだった。 「まあ……、そうかも知れないな。 俺が下の名前で呼ぶ相手と言えば、小町とか、……陽乃さんくらいか。 小町は妹だし、陽乃さんは単に雪ノ下との呼び分けだしな」 あと、川なんとか……さんの弟も一応名前で呼んでた気がするが、こちらも単に呼び分けだな。 つーか男じゃねーか。 「……」 由比ヶ浜はなにやら俯いてブツブツ言っているがよく聞こえない。 「どうした? 由比ヶ浜」 「……あたしも」 「……ん?」 「……あたしも、名前呼びがいい……」 「!」 由比ヶ浜は俯いたまま、朱く染まった顔でそう続けた。 心臓がドクンと跳ねる。 「……い、いやいやいやいや、む、む、む、無理だろ」 俺は動揺を隠せない。 「なんでだし!? 留美ちゃんの事は呼べてるじゃん!」 「いや、だって、子供相手と同年代相手じゃ違うだろ。 恥ずかしいから勘弁してくれ」 本当に勘弁してくれ、頬の熱さを自覚して、まともに由比ヶ浜の顔を見ていられない。 「誕生日の時に一度呼んでくれたじゃん!」 「あれは、……そうだ、言い間違いだ。 お前、着物姿でそういうのは大分恥ずかしいぞ。 これって名前を呼ばないと反応しなかった留美と同じじゃねえか。 由比ヶ浜の反応が留美と同じ小学生レベルと言うべきか、大人びた留美の反応が高校生レベルと言うべきなのか、判断に困るところだ。 間をとって両者中学生レベルってことにしとくか。 つーか、つーんって口で言っちゃうのかよ。 顔がさっきとは違う感じで赤くなってるし、どうやら威嚇されているらしい。 ホントに犬っぽいな、こいつ。 「うー……、別にみんなの前で呼んでとは言わないけどさ、今だけでも呼んでくれても……いいじゃん。 誰もいないし、その、せっかくの新年だし!」 「新年に何の関係が……」 そう言いながらも、残念そうな由比ヶ浜の目を見ていると、これ以上はごまかせないと感じていた。 あああ……、もう、仕方ねえなあ。 キョロキョロと周囲に客や店員がいないのを確認して、咳払いで声を落ち着ける。 つーか見える範囲に本当に誰もいないけど、大丈夫か、この店。 「分かったよ、……結衣」 「!!」 急に背筋を伸ばした由比ヶ浜は、見えない耳と尻尾もピクンと反応したような気がした。 だが俺はすぐに顔を横に逸らしてしまったので、その後の由比ヶ浜の反応はよく見えない。 目の端では何やら、由比ヶ浜の手がやたらわたわた動いているようだし、えへへーとか言う声だけは聞こえてくるんですけどね。 … … … 「しかしだな、お前、これはちょっと卑怯じゃないかね?」 しばらく経って、ようやく落ち着きを取り戻した俺はそう言った。 「えー、ヒッキー、卑怯って何が?」 「いや、それだよ。 お前の方はヒッキー呼びのままじゃねえか。 普通に考えたらひどいぞ、そのあだ名」 「えー? 可愛いあだ名だと思うのに。 ……そんなに嫌?」 素で納得いかなそうな由比ヶ浜。 ホントにこいつのセンスはおかしい。 「まあ、別にそこまで嫌なわけでもないが、お前もたまには名前で呼んでくれてもいいんだぞ」 そうしてお前も俺の恥ずかしさを理解するがいい。 恥ずかしそうにしながらも、まっすぐぶつかってくるところは本当に飼い犬と同じ由比ヶ浜アタックだった。 こうかはばつぐんだ! 「あ、あ、あ、えーと……」 俺の方はしどろもどろになってまともに返答も出来ない。 なにこれ、やっぱり俺の方が恥ずかしいじゃねえか。 「そ、その、えーとだな、や、やっぱり、いつもどおりヒッキーでいいぞ。 … … … 「まあ実際、ヒッキーでも別に嫌じゃないけどよ」 お前が呼ぶならな。 材木座だったら許さないけど。 「そうなんだ、えへへ……」 嬉しそうに笑う由比ヶ浜。 「ああ、じゃあ、そろそろ遅くなりそうだし、帰るか、由比ヶ浜」 「うん、……って、ヒッキーも呼び方戻ってるし! 結局1回しか結衣って言ってないし!」 いや、だって恥ずかしいし。 ねえ? 「……まあ、また、そのうちな」 「……うん、そのうちね」 しょうがないなあという感じで由比ヶ浜は苦笑する。 俺達の呼び名が変わる時はいつか来るのだろうか。 それは分からないが、 こそばゆさと恥ずかしさを感じながらも、それを決して嫌だとは思っていない自分を少し意外に思いつつ、俺達は店を後にした。 雪ノ下の誕生プレゼントを探すためだ。 雪ノ下の誕生日は今日だから、本来ならもっと早めに準備しておくべきなのだが、 俺が由比ヶ浜から雪ノ下の誕生日の事を聞いたのは一昨日の1月1日のことだったし、雪ノ下も冬休み中は実家にいるらしいので、俺達とのパーティーは後日にということになったのだ。 だから大丈夫、まだあわてるような時間じゃない。 なぜ昨日の1月2日に来なかったかと言うと、昨日は由比ヶ浜が三浦達と初詣の約束をしていたためだ。 「お前、ずっと出かけてるけど、ちゃんと勉強やってるのか?」 「!」 そう聞いた瞬間に固まって、ぎこちなく俺の方を振り向く由比ヶ浜の頭上に『ギクリ』という擬音が見えた気がした。 なんて分かりやすい奴。 「え、えーと、クリパの翌日から勉強は始めたんだけど、その、すぐに大掃除だとかお正月の準備だとかで忙しくなっちゃって、その……」 慌ててしどろもどろに答える由比ヶ浜を見て、少し笑ってしまう。 「まあ、年末年始は仕方ないだろ。 明日くらいからぼちぼちやれよ」 「……うん! えーと、分かんなかったら電話していいんだよね?」 「……文系限定ならな」 … … … 話しているうちにショッピングモールの入り口に付いた。 「何を送るのかは決めてるのか?」 俺の問いに、由比ヶ浜はうーんと悩ましげに首を傾げる。 「考えてはみたけど、まだ決めてないんだよね。 色々見ながら選ぼうかなって。 ヒッキーは?」 「まだだ。 あいつが欲しがりそうなものと言ったら……、猫かパンさん絡みが鉄板なんだろうけどな」 「猫の首輪とかは駄目だよ。 ゆきのん家、猫飼ってないし」 以前のことを思い出したのか、イタズラっぽく笑って由比ヶ浜は言う。 「分かってるよ。 ……まあ、万一そんなものをもらっても、雪ノ下の場合はうっかり自分で付けたりはしないだろうな」 「もー、それ言うなし! いいかげん忘れてよ!」 「自分でネタ振ったんじゃねえか」 フグのようにプクーッと膨れる由比ヶ浜を見て苦笑する俺だったが、犬の首輪を付けていた由比ヶ浜を思い出し、さらに猫の首輪を付けている雪ノ下まで想像して吹き出しそうになってしまったが自重する。 なんだそのゆきにゃん。 こんなことをうっかり由比ヶ浜の前で口に出してしまったら、またキモいと連呼されるところだった。 危ないところだったぜ。 クリスマスイベントの時に、留美から「キモい」と言われて謎の感動を覚えてしまった俺だったが、もしかすると由比ヶ浜に何度もキモいキモいと言われ続けてきたせいで、妙な耐性と属性がついてしまったんじゃないかと疑っている俺がいる。 由比ヶ浜のキモいマジ危険! … … … そうして2人であちらこちらの店を見ながら歩いていく。 と言うか、由比ヶ浜はちょっと気になったものがあるとすぐに店に入ろうとするので、なかなか進まないんですけどね。 「やっぱり服がいいかなあ。 ゆきのんに着てみて欲しい服が結構あるんだよね。 でもこのへんだと高くなっちゃうかなあ……」 「お前のセンスで贈る服か。 まあ方向性はいいんじゃないか。 予算が厳しけりゃ小物とかでもいいだろうし」 ネーミングや料理のセンスは絶望的に欠如している由比ヶ浜だが、おしゃれのセンスなら悪く無いはずだ。 「決めた! ちょっと予算オーバーだけど、これにする!」 気に入った服を見つけ、しばらく財布と睨めっこしていた由比ヶ浜だったが、決意を固めると勇ましくレジに向かっていった。 俺の予算の中から差し引きすればいいかと思い、少し援助するかと由比ヶ浜に言ったのだが、自分が贈りたいものだからと断られた。 やっぱりそういうところは結構きっちりしてるのかね。 最初の頃はカフェでおごってとか言っていたのに変わるものだ。 次は俺がプレゼントを探さなければならないが、さてどうしたものか。 あいつが欲しがりそうなものと言っても……、必要なものは持ってるだろうしな。 「猫やパンさん絡みって言っても、パンさんのグッズってほとんど持ってそうだよな」 「そうだねえ……って、あれ? ヒッキーあっち見てよ」 由比ヶ浜が指差した先の店では、獅子舞の扮装をしたパンさんや、袴を着たパンさん、干支の着ぐるみを着たパンさんなどの『お正月パンさんぬいぐるみ』なる限定品が並べられていた。 「ゆきのん、欲しがるかな?」 「分からんなあ。 通販とかでもう買ってるかも知れんし」 「じゃあ、いっそ聞いちゃおうか」 そう言って由比ヶ浜はささっと携帯を取り出して電話をかける。 「あ、ゆきのん、今大丈夫? 誕生日おめでとう。 今買い物に来てるんだけど……」 電話している由比ヶ浜を少し離れて見ていたが、しばらくすると由比ヶ浜がちょいちょいと手招きしてきた。 由比ヶ浜は俺に携帯を差し出しながら言う。 「ヒッキーに代わってって」 … … … 「おお、代わったぞ。 誕生日おめでとう。 あと、あけましておめでとう」 『ええ、ありがとう、それと、あけましておめでとうございます、比企谷くん。 誠に遺憾ながら今年もよろしくお願いします』 「遺憾なのかよ……」 実家にいるということだが、調子は悪く無さそうで、少し安心した。 俺を弄れるかどうかが調子のバロメーターなのって、どうなのかと思いますけどね。 『それで、お正月パンさんのことなのだけれども』 急に真剣味を帯びた雪ノ下の声に、一瞬緊張してしまう。 「ああ、どうする? 通販とかで買ってるんじゃないかとも思ったんだが」 『それも考えていたのだけれど、通販だと出来の良い物が選べないのよ。 』 「確かに、ぬいぐるみって出来に結構バラつきがあるよな」 『だから、出来るだけ顔のいい子を選んで頂戴。 顔だけではなくて、全体の縫製の具合や、汚れや、耳や手足の左右のバランスにも気を付けて。 あなただけのセンスに任せると少し心許ないから、由比ヶ浜さんと協力してもらえると助かるわ。 まあ、少しくらいの歪みなら愛嬌があったりもするのだけれどね。 私が持っているパンさんの中に口の端に少しビニールの欠片が残っている子がいるのだけれど、ヨダレを垂らしているようでそれはそれで愛着を感じたりもしているわ。 それで、お正月限定版の3種類が欲しいのだけれど、予算がオーバーするなら後から私からも出すから、お願いね』 「い、いや、大丈夫だ、3種類くらいなら予算の範囲内だ」 完全に本気モードの雪ノ下の勢いに少し押されながら、なんとか答える俺だった。 本当は自分で買いに来て吟味したかったんだろうなあと、しみじみと伝わってくる。 『それでは比企谷くん、今日は由比ヶ浜さんの荷物持ちとしての役割を全うするのよ。 それじゃ、また今度。 由比ヶ浜さんに戻してもらえるかしら』 「おお、またな」 由比ヶ浜の荷物、大した量ないけどな。 そう思いつつ、俺は由比ヶ浜に電話を返した。 … … … 俺にはぬいぐるみの出来の良し悪しが今一つピンとこなかったが、由比ヶ浜の助言を得ながらなんとか良品と思えるお正月パンさんズを手に入れた。 私にプレッシャーを与えるとは…! ラッピングしてもらったぬいぐるみ3つが意外とかさばるが、これ学校に持って行けるのかね。 いっそ郵送した方がいいんじゃなかろうか。 俺は雪ノ下のマンションは知っていても住所までは知らないが、由比ヶ浜なら分かるだろうし。 「意外と早く選び終わったね」 そう言われて時計を見ると、まだ12時の少し前だった。 「ああ、思ったより早く済んだな。 じゃあ、帰るか?」 別に本気ですぐに帰りたかったわけでもないが、お約束的に俺はそう言った。 いつもならここで 「帰らないし!」 と由比ヶ浜のツッコミが入るところだが、今日の由比ヶ浜は素で困ったような顔をしている。 実際用事は終わってしまったわけで、ツッコミ辛かったかと少し悪いことをした気分になってしまう。 「用事は終わったけどさ、せっかくだから、もうちょっとブラブラしない? 午後もう少し一緒に付き合ってくれたら……、嬉しいんだけどさ」 「あー……、まあいいけどな。 せっかくだし。 どこか行きたいとこあるのか?」 「それはこれから考える! お腹空いたし、ご飯食べながら考えようよ」 「そうだな、何食う?」 「うーん、どうしよ。 サイゼでもいいけど……」 そう言いながら、由比ヶ浜は店内の案内図の方に歩いていく。 やっぱり高校生の財布に優しいのはサイゼですよね。 こいつ、さっき予算オーバーとも言ってたしな。 ……などと考えていたその時だった。 「おや、比企谷と由比ヶ浜じゃないか」 よく知っている声に俺達は呼び止められた。 … … … 「平塚先生だ! あけましておめでとうございます!」 「うす、おめでとうございます」 由比ヶ浜の元気な挨拶につられて、俺も先生に挨拶する。 「ああ、あけましておめでとう。 先生は由比ヶ浜の耳に顔を近づけると、こそりと言った。 まあ聞こえてるんですけどね。 「もしかして、声をかけたらまずかったかね?」(コソッ) 一瞬で真っ赤になりながら、由比ヶ浜が弁明する。 「こ、今回は、そ、そういうのじゃないですから! ゆきのんの誕生日プレゼント買いに来ただけですから!」 ねっ! と同意を求めるように俺を見る由比ヶ浜だったが、俺は由比ヶ浜の言葉に軽く頭を抱えてしまった。 ほんとに早く誰か貰ってあげてくれよ。 仕方ないので、俺はなるべく会話の流れを変えようと試みる。 「雪ノ下の誕生日は今日なんですけど、家の用事で俺達とパーティーが出来るのは学校が始まってからなんですよ。 これがプレゼントなんですが、学校に持っていくのはマズいですかね?」 そう言って俺は、お正月パンさん3体セットが入った袋を掲げてみた。 「そうだな、朝早めに来て、部室に置いておく分には構わんよ。 普段は鍵もかかっているし大丈夫だろう」 平塚先生が大人らしい落ち着きを取り戻してくれた。 高校生に気を使わせる大人ってどうなんだろうと少し思わないでも無いけどな。 「じゃあ、もしかしたらそうさせてもらうかも知れません」 「先生はどうしてたんですか?」 由比ヶ浜の問いに先生が答える。 「ああ、正月番組にも飽きて暇をしていたし、外食でもと思ってね」 「そうなんですか。 あたし達もこれから食事なんですよ。 じゃあ、ご一緒にどうですか?」 いい考えだという風に、ポンと手を打つ由比ヶ浜。 「いいのかね? お邪魔じゃないか?」 「そ、そんなことないです! ヒッキーもいいよね?」 またわたわたしている由比ヶ浜。 落ち着け。 「俺は構わないけどよ。 ただし、先生と一緒だと多分……」 「よーし、2人ともおごってやろう! 新しいラーメン屋が出来て、評判がいいみたいなんだ」 「……ラーメン屋になるぞと」 「あはは……、なるほど」 ラーメンはあっさり系の味で、正月で食い過ぎた腹にはちょうど良かったです。 ごちそうさまでした! … … … 「じゃあ、私は行くよ。 君達は、まだ買物かね?」 「えーと、買物は終わったんで、どうしようかなーと思ってたんですよ」 その由比ヶ浜の言葉に、先生は少し考えた後に鞄に手を入れた。 「映画の共通券、……タダ券がある。 ここのシネコンでも使えるが、良かったらいるかね? 有効期限が近いが、私はいま特に観たいものが無いんだ」 「え、いいんですか?」 「ああ、2枚あるから持っていきたまえ」 どうしたんだろ、これ……と思ったが、聞くと地雷っぽい気もするな、と思っていると。 「先生、どうしたんですか、これ?」 ……聞いちゃったよ。 由比ヶ浜さんマジ果敢。 お前、本当に空気読むの得意なの? 「これか……、おばさんが、デートにでも使えと送ってきてたんだが、相手がな……、いないまま有効期限がな……」 「せ、先生、言わなくていいですから! ご、ごめんなさいっ! 先生!」 必死で先生を慰めようとする由比ヶ浜。

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俺ガイル短編SS集in炊飯器

俺ガイルss 八幡 笑う

雪乃「比企谷君を更生させましょう」 八幡「はぁ?」 雪乃「比企谷君はそもそもその腐った性根を叩き直すために、奉仕部に入ったのだったわね」 八幡「一応名目上はそうだな」 雪乃「だから具体的にいろいろしてみることにするわ」 八幡「ちょっと待て。 いろいろとは具体的に何だ」 雪乃「細かいことは気にしてはいけないわ」 八幡「おい」 雪乃「あなたにも協力を頼むわ、さん」 結衣「えっ、あたしも?」 雪乃「比企谷君のためと思って、お願いできるかしら」 結衣「ううん、全然いいよ!」 八幡「おい」 雪乃「さん、ちょっと耳を貸して」 雪乃(私たちが八幡にキスするしかないわ) 結衣「…………」ポッ 八幡「おい、なんなんだよ」 結衣「えっと…これもヒッキーのためだし、いいよね」 雪乃「そうね。 それにこれをすれば比企谷君の荒みきった心も多少は良くなるはずだもの」 八幡「だから何の話をしているんだ」 結衣「でも、そしたら先にしたほうがヒッキーの初めてを取っちゃうことになるね」 雪乃「私としてはこんな男とその……スなんてしたくないのだけれど、しなければならないのならば初めては私が欲しいわ」 結衣「あたしも……その……初めてが欲しいな」 八幡「……」アセダラダラ 陽乃「やっはろー?」 八幡・雪乃・結衣「「「!?!?」」」 雪乃「なんで姉さんがここに!?」 陽乃「比企谷君のファーストキス。 あなたは……」 陽乃「ズルを、したんだよ」 八幡「ズル?」 陽乃「うん、ズル」 八幡「ズルって一体何を……」 陽乃「別にー? ただ比企谷君とキスする相手を私にしちゃっただけだよ」 陽乃「雪乃ちゃんとがはまちゃんの二択という『ルール』を破って、ね」 八幡「そんなことができるんですか?」 陽乃「別にできなくはないよ。 でも、『ルール』破った人間には、『罰』がある」 八幡「罰……?」 陽乃「そう。 将棋で二回連続で打っちゃったら負けだし、麻雀でもフリテンで満貫払いでしょ」 陽乃「それと同じ、『罰』だよ」 八幡「罰ってなんすか。 てか、ならなんでわざわざそんなことを」 陽乃「そもそも私がなんとも思っていない相手にここまですると思う? それは今日に限らず今まででも」 八幡「……ただからかって遊んでるだけなんじゃないんすか」 陽乃「んー、まぁ始めはそうだったけどね。 今はちょっと違うよ」 陽乃「初めて会った時のこと、覚えてる?」 八幡「ららぽに行ったときっすよね」 陽乃「うん、そう。 私、君みたいな子に会うの、初めてだったからね、あれからちょっと興味が出たんだ」 八幡「はぁ……」 陽乃「比企谷君ってからかうと面白かったし最初は遊びのつもりだったんだ」 陽乃「でも、雪乃ちゃんや静ちゃんやめぐりや隼人たちから比企谷君の話を聞いて、君にちょっとだけ惹かれていった」 八幡「一体どんな話をしたんですかね……」 陽乃「比企谷君が奉仕部でやらかしたこととかは大体知ってるよ。 私がそうなっちゃったのは」 八幡(スッと俺を見つめる。 その目からはいつものような恐怖を感じない) 陽乃「比企谷君、私ね……」 八幡(強化外骨格のような外面は、もうなかった) 陽乃「比企谷君のこと、好きなんだ」 八幡「…………」 八幡「…………」カァッ 陽乃「……相変わらずかわいいな、比企谷君は」クスッ 八幡「……ドッキリとかは…………」 陽乃「ないよ? それは比企谷君が一番わかってるんじゃないかな?」 八幡「……わかんないっすよ」 陽乃「そっか。 まぁ今までの行いもあるし仕方ないかなー」 八幡(その言葉に俺は何も返せなかった) 陽乃「うん、しょうがない」 八幡(自嘲気味に愚痴を漏らすと、陽乃さんは一歩、俺のもとに踏み込んできた) 陽乃「これはね、私のわがまま」 八幡(顔をズイと近づけられる。 八幡(陽乃さんの唇が俺の唇に触れる。 これまでのことも、全部」 陽乃「君の中から私は消える」 陽乃「ううん、それも違うかな。 『比企谷君と私が出会った』という事実そのものが消えちゃうんだ」 八幡「なんですかそれ……!」 陽乃「『罰』ってね、受ける本人にとって一番つらいものになるの。 だから、比企谷君が忘れちゃっても、他の誰もが覚えていなくても、私だけは忘れられずにい続ける」 陽乃「それが、『ルール』を破った『罰』なんだよ」 八幡「そんな……」 八幡(身体に入り込んだ何かが記憶を消し始める。 俺の中の陽乃さんに関する記憶がどんどんあやふやになる) 陽乃「自分勝手な女の子でごめんね……」 八幡「どうしてそこまでして……」 陽乃「私は比企谷君には選ばれないからね」 八幡「選ばれない?」 陽乃「そう、私は君に選ばれない。 比企谷君が選ぶのはあの二人のどちらかだから」 八幡「選ぶって……俺にそんな権限ないっすよ」 陽乃「そう思うかもしれないけどね。 お姉さんには何となくわかっちゃうんだー」 八幡「…………」 陽乃「私の恋は叶わない。 それでもせめて、こんな風に気持ちを伝えたかった」 陽乃「だから、こんなものに頼った」 陽乃「それで比企谷君との今までとこれからを捨てることになったとしても、どうせ結ばれないなら、記憶なんてあってもなくても一緒だしね」 陽乃「それに、雪乃ちゃんからまた取っちゃうなんてできないし」ボソッ 八幡「えっ?」 陽乃「ううん、今のは何でもないよー」 陽乃「もう、私のことを忘れ始めてるんじゃないかな」 八幡「そんなわけないでしょう」 陽乃「そうかな。 じゃあ、文化祭で雪乃ちゃんたちとライブをした時、私はなんの楽器だったでしょう?」 八幡「そんなの覚えてるに決まってるじゃないですか。 ……あれ?」 八幡(言葉が、詰まる。 俺は、思い出せなかった) 陽乃「……ほらね」 八幡「違います。 この人が誰だったのか、それすらも曖昧になる) 陽乃「そっか。 もうそんなところまで忘れちゃったか」 八幡(悲しそうに笑う陽乃さんの姿はとても弱々しい。 もうこの人が具体的に俺にどう関わっていたのかも思い出せない) 八幡(それでも、この人がいつも強く、畏怖の対象であったというイメージだけは残っていた) 八幡(だからそんな姿を見せることから、それほどまでに精神的にきているのだということもわかった) 陽乃「どうしてこんなことしちゃったんだろ。 いつもの私なら絶対にしないのになー」 陽乃「……なんてね。 その答えだって全部わかってるよ」 八幡「……なんですか?」 陽乃「それくらい、比企谷君を好きになっちゃったんだよ。 いつもの俺なら絶対にこんなことをしない。 いつもの私なら絶対にしないのになー』 陽乃『……なんてね。 その答えだって全部わかってるよ』 八幡『……なんですか?』 陽乃『それくらい、比企谷君を好きになっちゃったんだよ。 比企谷君を諦める決定的な理由) 陽乃(私と彼との間を完璧に断裂させる何かが) 陽乃(そうでもしないと私はきっと諦めきれない。 ずっと想いは心の中に残り続けてしまう) 陽乃「……やっぱりやりすぎちゃったかな」 陽乃(後悔したって仕方ない。 こんな風にモヤモヤしているのなら、一体何のためにあんなことをしたのか、わからなくなってしまう) 陽乃「……大学にでも行こうかな」 陽乃(行けば知り合いが誰かしらいるだろうし、暇つぶしにはちょうどいい) 陽乃(きっと、気晴らしにも) 陽乃「……あっ」 陽乃(こんなことってあり得るのかな) 陽乃(あんな風に別れたすぐ後に姿を見かけるなんて) 陽乃(比企谷君はいつもと変わらずにその腐った目を携えて、街の中を歩いていた) 陽乃(人ごみに紛れて気づかれないようにその横を通り過ぎる) 陽乃(……って、そんなことする意味はないんだっけ) 陽乃(通り過ぎる一瞬だけ横顔が見える) 陽乃(その表情にまた少しだけドキッとして、そして切なくなる) 陽乃「やっぱなこと……、いや、ダメダメ」 陽乃(いつか隼人に言われたことがあった) 陽乃(私は好きなものをかまいすぎて殺すか、嫌いなものを徹底的につぶすことしかしない、と) 陽乃(その言葉を借りると、私はいつか比企谷君を殺してしまうのだろう) 陽乃(……それでも) 陽乃「ねぇ」 陽乃(そう、声をかけた) 陽乃(注意して聞かない限り、街の喧騒にかき消されてしまうくらい小さな声で) 八幡「…………」 陽乃(彼はゆっくりと振り返った) 陽乃「あ……」 八幡「……?」 陽乃「え、えーっと……」 陽乃(まさか聞こえるなんて思っていなかった。 万一聞かれたとしても反応されないように名前は呼ばなかったのに) 八幡「あの……なんですか?」 陽乃「あー……、な、なんていうか、ちょっとねー」 八幡「……?」 陽乃「それよりもちょっと変なこと聞くけど」 八幡「はい……?」 陽乃「私のこと……覚えてるかな……?」 八幡「えっ。 ……すいません、どこかで会ったでしょうか?」 陽乃「……っ!」 陽乃(ズキッと胸に痛みが走った。 わかっていたのに、それでも涙がこぼれそうになる) 陽乃(こうなるのを望んでいたのは他でもない自分なのに、矛盾している) 八幡「あの……大丈夫ですか……?」 陽乃「……うん、もうね」 陽乃(『罰』はもう受けた。 あとはもう、私が去るだけ) 陽乃「ごめんね。 人違いだったみたい」 陽乃(もう、こんなことはよそう。 どうして……?」 八幡「わからないですけど、現に今、俺は雪ノ下さんのことを覚えてますよ」 陽乃「だってあの時、比企谷君は私のこと……!」 八幡「まぁ、あの時は本当に忘れましたけど……。 それがどうしようもないくらいに、嬉しい) 八幡「ですか。 雪ノ下さんに恨まれたら報復が怖いんで助かります」 陽乃「あっ、でも条件付きね」 八幡「えっ? なんか嫌な予感しかしないんですけど……」 陽乃「別に大したことじゃないよー?」 陽乃「これから私のことを『陽乃さん』って呼ぶこと」 八幡「それは無理ですよ……」 陽乃「でもあの時には呼んでくれたじゃーん」 八幡「あの時はあの時ですよ」 陽乃「ちぇー。 あんな強引な終りに意味なんてない) 八幡「で、どうするんですか?」 陽乃(それにいくらあの二人が比企谷君に近しいからと言って、それで私が諦める理由にはならない) 陽乃「そうだねー。 とりあえずそこらへんの喫にでも入る?」 陽乃(欲しいものは何がなんでも手に入れる。 私なら、それもできるだろう) 陽乃(きっと私が懸念していたことはみんな解決できる。 それが来る日を信じて) 陽乃(私はの道を強く蹴った) 終 元スレ 雪乃「安価で比企谷君を更生させましょう」 八幡「はぁ?」.

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俺 ガイル ss 八幡 ハーレム

俺ガイルss 八幡 笑う

それはウィンターカップが終わった後の話… ピンポーン 小町「はいはーい!」 ガチャ 小町「およ?どちら様ですか?」 赤司「比企谷の中学時代の知り合いだ。 少し比企谷を呼んできてくれないか?」 小町「分かりました〜!少し待っててくださいね〜!」 小町「お兄ちゃ〜ん!お客さんが来てるよ!」 八幡「は?俺に客?」 小町「うん、『比企谷呼んできてくれないか』って言ったしお兄ちゃんのことでしょ?小町、あんな人知り合いにいないし…」 八幡「ったく、誰だよ一体…」 小町「なんか中学時代の知り合いって言ってたけど…」 ガチャ 八幡「はいはい…どちら様ですかって!!お前ら!!」 赤司「久しぶりだね、比企谷」 緑間「久しぶりだな」 黄瀬「お久しぶりっす!比企谷っち!」 紫原「比企ちん、久しぶり〜!」 青峰「久しぶりだな、比企谷!」 黒子「お久ぶりです。 比企谷君」 八幡「なんでお前ら…」 赤司「比企谷と少し話をしようと思ってね」 八幡「話って一体…」 赤司「すまなかった…あの日のこと…」 そう言って赤司は頭を下げる 怒鳴られることを予想し、許してもらえないかもしれないと考えていた。 が… 八幡「あ、あぁ…あの日のことならもう良いよ。 お前らに理想押しつけて勝手に失望した俺も悪いんだし…それに、俺は目を逸らして逃げたしな…」 赤司「すまない。 そして、ありがとう。 許してくれて」 八幡「話はそれだけか?俺、今すぐ寝たいんだけど…」 赤司「今から比企谷に償いの意味を込めて1日俺達は比企谷の言う通りに動こう」 八幡「じゃあ、帰っ」 黄瀬「帰ってくれは無しっすよ!せっかく久しぶりに再会したんスから遊ぶっすよ!」 青峰「何でもいいぜ!黄瀬の写真売りさばいて金を儲けるとかでもよ!」 黄瀬「それ、俺しか苦労しないじゃないッスか!」 八幡「はぁ……それなら、1つ頼んでいいか?」 緑間「あぁ、何でも聞くと約束したからな。 その用件は?」 八幡「今日、ここの近くのストリートで地域のバスケの大会があるんだわ」 八幡「それに俺達7人で出場する」 「「「「「「!?」」」」」」 八幡「久しぶりに全力でバスケがしたい。 お前らなら動きについてきてくれるから思い通りに出来るしな」 青峰「いいじゃねぇか!バスケ出来るとか最高だぜ!」 紫原「ま、いいんじゃない?」 赤司「またこのメンバーでバスケが出来るのか…」 黄瀬「いいッスね!」 緑間「俺も問題ない。 ラッキーアイテムは持ってきているからな」 黒子「………」 八幡「あ?黒子?ダメか?」 黒子「いえ、またこのメンバーでバスケが出来ると思ってなかったので…正直、物凄くワクワクしてます」 黄瀬「1日限りの帝光中復活スよー!」 青峰「お前が仕切るんじゃねぇよ!」ボカッ 黄瀬「サイコパスッ」 〜続くかわからない〜.

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