ウニ の 発生。 三陸の海でウニ大量発生、海藻の食害深刻 身も少なく (写真=共同) :日本経済新聞

ウニ受精実験

ウニ の 発生

お問合せが多いので、2020年の日程予定について加筆しました( 青色文字部分)。 2020年のウニ発生実験のご案内ページも作りました。 このページは、理科室カフェにご参加いただき、夏休みの自由研究にまとめようとしている方用に実験の手順や飼育の方法などを記録しておくことと、次の日程予定を掲載するものです。 【ウニのシーズン】 わたしたちが食べているウニの部分は生殖器です。 お寿司屋さんの軍艦巻の上に乗っているウニはオスメスの区別はつきませんね。 オスもメスも生殖器はあんな形をしています。 ここでシーズンというのはウニが卵・精子を持つ季節です。 バフンウニでは冬から春、ムラサキウニは夏、アカウニでは秋に、ウニたちは卵・精子を作り子孫を残します。 発生の実験はこの季節に限られます。 そしてバフンウニが一番やりやすく、受精膜も明瞭で、その後の飼育もしやすいので、きらら舎ではこれをメインにしています。 夏にはムラサキウニでも実験を行いますが、ウニの輸送時の温度管理や実験時の棘の処理、ウニになってからの飼育など、バフンウニに比べて難易度が上がります。 また、アカウニはなかなか採取・入手ができません。 【きらら舎のワークショップ】 きらら舎のワークショップでは1月下旬から2月下旬にバフンウニで1回。 3月下旬から4月上旬でバフンウニの2回目を行うようにしていました。 しかし近年、関東近海の海水温が上昇しているため、2020年は最初のワークショップは2月22日(土)を予定しています。 1回目の実験はシーズンの開始直後に、一番いい状態(満月か新月の翌日)に採取してもらったものを使います。 2回目の実験は磯研修に参加する時に採取したものを使って行います。 2020年は4月の予定です。 詳細は磯研修日が決定次第、このページを更新します。 なお、磯研修開催が土曜日となるため、土曜日はカフェはお休み。 磯研修で採集したものを翌日にA. 1回目の実験ではほぼ確実に実験を行い、放精・放卵の体験、未受精卵と精子の観察・撮影。 その後にお持ちのスマホやタブレット上にて受精させます。 受精膜があがるまでを観察します。 その後、受精卵~プルテウスをお持ち帰りいただいて飼育ができます。 通常、学校で実験を行った後、生徒に継続して飼育・観察をさせるポケット飼育というものがあります。 ここで使う飼育容器は小さなチューブですが、きらら舎では2019年から大きな培養フラスコにてお渡ししています。 綿密に個体数を数えて計算してお渡ししていないので、少し多めになっています。 次の水換え時に複数の容器に希釈して、いくつか条件を替えて飼育してみるとよいと思います。 2回目の実験( 2020年は4月の予定)はウニのシーズンの終わり近いため、実験ができるかどうかはわかりません。 採取してきたウニが卵と精子をもっていないこともあり、また持っていたとしても、シーズン終わりだとあまり状態がよくない場合もあります。 ただし、ウニの実験以外にも採取してきた生体の観察や配布も行います。 2回目にご参加予定の場合でも、1回目の生体をご購入いただいておくと完璧です。 2019年は2回目もうまく行きました。 ウニ幼生飼育キット ¥1500 >>通販 *培養フラスコ入り幼生 *2週間分の餌 *2週間後に追加の餌と水替え用シートを郵送します(料金内) もし、飼育途中で全滅してしまった(と思った)場合、ご連絡の上、できるだけ早めにカフェにお持ちください。 全滅しているかを確認の上、だめだったら新たに生体を差し上げます(無料)。 リベンジはきらら舎で配布用に維持している個体がある限りは無料で差し上げます。 【カフェでの実験手順】 参加者の方4名で1テーブル(場合によっては各テーブルにプラス1席、補助席が出ます)となります。 1テーブルに2~3個のウニを渡しますので、有志の方にアリストテレスと呼ばれるウニの口器をはずしていただきます。 体内の水を振り切って、まずはシャーレの上にウニを乗せて0. 5molのKClをスポイトで入れます。 KClによって筋肉が収縮し、メスならば卵、オスならば精子を放出します。 これが黄色であれば速やかに準備しておいた三角フラスコ(海水を満たしてある)に乗せて放卵させます。 ウニ生殖巣は(オス、メスとも)5つあることから、放出される卵は黄色い5本の筋となって落ちていきます。 シャーレに放出されたものが白ければ精子なのでそのままにしておきます。 まずはシャーレに出た分の未授卵をモバイル顕微鏡で観察します。 少し海水で希釈して観察用のスライドグラスに付着させます。 2020年は800倍のモバイル顕微鏡もご用意します。 次に精子を海水で希釈し、爪楊枝でスライドグラスに付着させてモバイル顕微鏡で観察します。 動画撮影もできます。 2020年は800倍のモバイル顕微鏡もご用意します。 次に、シャーレに卵を取り、海水を少し補充します。 そこに、爪楊枝の先に海水で希釈した精子を付けてシャーレの卵に混ぜて受精させます。 受精の様子は動画で撮影すると面白いと思います。 卵に精子が群がり、1つの精子が卵に入った途端にそこ位置から受精膜が上がります。 やがて卵割が始まります。 小中学生への課題 *卵やプルテウスの様子をスケッチしてきてください 2細胞期、4細胞期、8細胞期、16細胞期、桑実胚、孵化・・・・・ 16細胞期(受精から 約10~12時間後)では小割球・大割球・中割球に分かれていることをよく観察してスケッチしてください。 夏休みにそれをコピーしたものをもってカフェへお越しください。 スケッチした部分に詳細(部位の名称やその後何になるかなど)を書き込みます。 コピーしたものに直に説明を聞きながら書き入れていただくため、必ず現物ではなくコピーしたものをお持ちください。 コピーは到着後、セブンイレブンでもできます。 複数コピーしておくと安心です。 5molのKCl きらら舎の天気管ワークショップで使っている塩化カリウムです。 これをモル計算で0. 5mlの水溶液とします。 計算式が必要な場合はカフェにてお申し出ください(筆記用具をご持参ください)。 【ポケット飼育】 より本格的に飼育するために、250mlの培養フラスコに入れてお渡しします。 実験当日は個体数を計算してお渡しする余裕がないため、濃いめになっていると思いますので、1回目の換水時に複数容器に希釈してください。 この複数容器はあえて条件を変えて飼育してみるのも面白いです。 しかし、少しづつ自然淘汰されるので、3日に1回半量の水交換時に生存数が多ければ容器を分けるようにしてみてください。 水換えは、フラスコの口をプランクトンネットかキムワイプやろ紙で覆い、ゆっくり水を半分ほど捨てます。 そのあと、口に当たっていた部分の位置がずれないようにネットを裏返して再度セットし、上から少しだけ水を注ぎ、ネットについているかもしれないプルテウスを落とします。 その後はネットをはずして抜いた分の水を加えてください。 餌は浮遊珪藻のキートセラスです。 2~3日に1回、スポイトで数滴、飼育容器に入れます。 顕微鏡でプルテウスの胃に茶褐色が確認できれば 食べている証拠です。 4腕プルテウス。 6腕目が少し伸び始めています。 プルテウス幼生になると、容器の外からルーペでも観察ができます。 2019年の第一回目のプルテウス幼生の変態準備 飼育温度(室温)にもよりますが、我が家の生物エリアは南窓に面した温かい場所なので、プルテウスは30~35日で、ほぼ変態間近となりました。 飼育容器の外側からルーペで観察すると、プルテウスのステージがほぼわかります。 4腕、6腕のものでは三角形が細長いのに対して、8腕は丸っこい印象となります。 さらに原基が成長すると(原基が胃と同じサイズになると変態間近です)もっと丸っこくなります。 モバイル顕微鏡で観察すると管足や棘も見えます。 本当は、培養容器の口にキムワイプやプランクトンネットなどを付けて水を捨て、少量の海水に濃しとった幼生を戻すのですが、このネットの選択を誤るとすべて捨ててしまうことになるので、目視で容器内にいる幼生をパスツールピペット(硝子製でスポイトの細いやつ)で吸い取ってシャーレに移すのがよいかと思います。 パスツールピペットを使用するのは海水をたくさん吸わないようにということなので、先が細いスポイトでもかまいません。 3体ほどをモバイル顕微鏡用のフラスコに入れてみました。 本当は大き目なフラスコのほうがよいのですが、変態をそのままモバイル顕微鏡で観察するためのものです。 確実な飼育用にはきっちりフタの閉まる容器をご用意ください。 浅いもののほうが観察がしやすいです。 きらら舎生物部では「100均クリームびん」で行っています。 直径4cmほどの携帯用化粧品を入れる透明な容器。 ネジ式でフタが閉まります。 底ができるだけ平だと、モバイル顕微鏡で、そのまま観察ができます。 ちょうど雌株のよいものが出回っている時期なのでそれの欠片を入れてみました。 ワカメや昆布など諸説ありますが、ヨウドが問題のようです。 甲状腺ホルモンの錠剤をすり潰して投与してみたシャーレもセットしました。 結局、メカブは取り出しが遅れて水質が悪化、錠剤のほうもチロキシン以外の錠剤を整形するための粉などのせいで水質悪化でうまく行きませんでした。 メカブは1時間ほどで取り出すのがいいと思います。 ライブロックやウニの故郷の海藻(ひじき)を入れたものが変態しました。 2020年は変態用のチップも作ってみようと思っています。 タイドリウム シャーレでウニに変態しても、まだまだ小さいのでいきなり水槽に入れると見失ってしまいます。 そこでシャーレを少しづつ大きくしながら飼育をします。 浅いジャム壜などにライブロックを入れて稚ウニをライブロックの上に落とします。 1cmを越えたら底面フィルターの小さな水槽で小さなタイドプールを作って飼育をすると楽しいです。 海水用の藻を植えると雰囲気がでます。 【プルテウスの餌の培養】 キートセラスは2週間ほどしかもちません。 そのため、2週間後に再度餌を郵送します。 しかし自分でキートセラスを培養することもできます。 培養を希望される方はカフェにてご相談ください(きらら舎でも注文できます)。 キートセラスの種株(これは餌としてお渡ししたものでもOKです)、KW21、メタ珪酸ナトリウムをお分けしております。

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ウニ

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基本的な三つの体軸として上下,背腹,左右。 上下軸は頭尾軸ともよばれる。 卵割が体細胞分裂と異なる点は、卵割は細胞が成長せず、短時間に起こるため、割球がしだいに小さくなることである。 卵割の様式は、卵内にたくわえられた卵黄が卵割のじゃまになるため、その量と分布に関係する。 極体の放出される場所を 動物極、その反対側を 植物極とよび、通常の図では卵の上方が動物極である。 卵黄量が少なく、均等に分布する 等黄卵は、ほぼ同じ大きさの割球を生じる 等割になる。 ウニや哺乳類の卵がこれに相当する。 卵黄が比較的多く、植物 極に偏って分布する 弱端黄卵では植物半球が卵割しにくくなり、 不等割とな る。 両生類の卵がこれに相当する。 卵黄がかなり多い 強端黄卵では、動物極 の一部だけで卵割が進み胚盤ができる 盤割となる。 栄養となる卵黄が多い ので鳥類や魚類卵など食用となる卵が多い。 卵黄が卵の中心に集中している 心黄卵では 表割となる。 昆虫類やクモ類、甲殻類はこれに相当する。 食用の鶏卵を皿に割り入れると必ず上にくる白い円盤部が胚盤のできる場所 である。 等割と不等割は卵全体に卵割が及ぶので全割、盤割と表割では卵の一部分に卵割が限られるので部分割と分類する。 発生 = 受精卵(1個の細胞)から成体(60兆個の細胞)までの経過。 体内には脳の神経細胞,筋肉の筋繊維,小腸上皮細胞など異なった形態の細胞がある。 【図:それぞれの細胞の形態の図】 【コメント】神経細胞は外胚葉由来,筋繊維は中胚葉由来,小腸上皮細胞は内胚葉由来である。 【参考】 線虫の細胞系譜 池田博明 2002年のノーベル医学生理学賞は線虫 elegansの約1000個の細胞系譜をあきらかにした研究者と、アポトーシスをあきらかにした研究者に贈られた。 物理学賞と化学賞の受賞者が日本人だったので、日本ではそちらの二つの賞だけに焦点が当っていたが、医学生理学賞では細胞系譜が発生学上の課題を解決する研究として評価されたのである。 したがってこの期間の飼育には餌を与える必要がない。 ウニの初期発生は多くの研究に利用されてきた。 関東地方では、2月はバフンウニ、7月はムラサキウニを使った人工受精の適期である。 受精後、半日で卵割をくり返す様子は生命の律動を顕微鏡下で観察できる稀な機会である。 ムラサキウニは採集の刺激で放卵・放精することも多く、扱いが難しい。 (1) 等黄卵 鳥の卵 卵黄が多い (強)端黄卵 ウニの卵 卵黄が少ない,全体に分布 等黄卵=哺乳類の卵も同様 【参考】卵黄は発生の際の栄養分であるが,卵割の邪魔となる。 卵割の方法はまず全割と部分割に分類する。 部分割には盤割と表割が入る。 昆虫卵は心黄卵で表割。 両生類は弱端黄卵で不等割。 【参考】トリの卵黄や卵白は輸卵管を下がっていく間に付く。 餌の色を変化させると,同心円状の虹色卵が出来る。 産卵直後の卵は殻が固化していないので軟らかい。 精子を使用しない発生を単為発生とよぶ。 カエルの卵の場合はガラス針でつついて単為発生させた。 ただし,成功率は低い。 アリやミツバチの社会のオスがそれに当たる。 未受精卵はオスに発生し,受精卵は働きアリや働きバチに発生。 したがって,オスは半数体(n.核相が単相)である。 【参考】多精阻止機構 受精膜除去により多精を起こすウニ( Lystechinus pictus や L. variegatus)は受精膜に多精阻止機構があるが,別のウニ( Dendraster excentricusや Paracentroutus lividus)では受精膜をのぞいても多精は起こらない。 つまり,卵の細胞膜にも阻止機構がある。 阻止機構はほ乳類の卵では透明帯にある。 昆虫・両生・は虫・鳥類の卵では多数の精子が入るが,1個の精子だけが卵核と融合すると,他の精核は破壊される。 接合核に近い精核ほど早く退化する。 桑実胚 morula では卵割腔が見られるようになる 胞胚 blastola:胞はふくろの意味,胚は初期の体を表す ふ化=受精膜を破って泳ぎ出す (1)2細胞から胞胚まで 2細胞期の卵割面は動物極から植物極を通る経割で、4細胞期の卵割も経割である。 第3卵割で初めて緯割が起こり、8細胞期になる。 ここまでは完全に各割球は同形 同大の等割である。 第4卵割では動物半球は均等に経割し、植物半球はやや植物極に偏って緯割する。 この16細胞期に中割球、大割球、小割球のちがいを生ずる。 細胞の分化の始まり である。 これらの割球の違いにかんしては後述する。 卵割はその後も続き、多数の割球が集まった桑実胚となる。 外形が桑の実に似ていることから、日本ではこう呼ばれる。 桑実胚を英語ではmorulaと呼ぶが、この語の意味は「かたまり」である。 単なる細胞のかたまりがなぜ場所によって異なる器官に発生するのかの謎を解くのが、 発生学の課題である。 さらに卵割が進むと胞胚となり、割球は小さな一層の細胞となって表面に並び、 中央の卵割腔が大きくなって胞胚腔となる。 胞胚の後期に表面に繊毛が生じて受精膜のなかで回転し始め、やがて受精膜を破る ふ化をして、泳ぎだす。 泳ぎだした胞胚を遊泳胞胚とよぶ。 (2)原腸胚からプルテウス幼生まで 胞胚までは卵割だが、細胞分裂は続き、植物極側の細胞層が胞胚腔内に陥入し 始める。 この陥入によってできる管が原腸で、その入口を原口という。 陥入する原腸の壁をつくる細胞が内胚葉、胚の外側の細胞が外胚葉、胞胚腔のなかに 遊離した細胞を中胚葉という。 この時期の胚を原腸胚とよぶ。 原腸の陥入が進み、原腸の先端が外胚葉に達して口ができ、中胚葉から筋肉や骨片が 分化して 胚はプリズム型の幼生となる。 やがて口の周囲に突起が伸び、骨格もできプルテウス幼生となる。 (3)胚葉形成と器官分化 原腸胚が胚葉形成時期である。 中胚葉のうち、植物極の細胞から胞胚腔のなかへ 遊離する細胞が第一次間充織で、これらは16細胞期の小割球に由来する。 原腸の先端から遊離する細胞が第二次間充織である。 第一次間充織は骨片に分化し、第二次間充織は筋肉に分化する。 外胚葉は体表や神経に、内胚葉は消化管に分化する。 原口は肛門に分化する。 口は原腸の先が外胚葉に接した場所にできる。 このように原口が肛門に分化するのが新口動物で、 棘皮動物(ウニやヒトデなど)・半索動物(ギボシムシなど)・脊索動物 (ホヤやナメクジウオ、セキツイ動物)が属する。 原口が口に分化するのを旧口動物という。 プルテウス幼生以降は餌を食べる。 やがて劇的な変態をしてウニになる。 (4)胚葉形成 原腸胚 gastrula にて起こる 陥入により原口ができる 三胚葉を発見したのは、1820年代にニワトリ胚を 研究したChristian Pander(ドイツ)。 外胚葉が胚の外側の層を形成、 皮膚の表皮・脳・神経系を形成する 内胚葉は胚のいちばん内側の層となり、 消化器系とそれに付随する器官を形成 中胚葉は外胚葉と内胚葉の間にあり、 血液・心臓・腎臓・生殖腺・骨・筋肉を形成 [ギルバート『発生生物学』第10版,p. 胚葉形成…原腸胚の時 外胚葉(表皮や神経になる) 中胚葉(筋肉や骨片になる) 内胚葉(腸になる) プルテウス幼生 (遊泳生活) 【コメント】なぜ神経は表皮と同じ外胚葉なのか 池田博明 各胚葉の分化を学んだとき、誰しもちょっと引っかかるのが表皮と神経が外胚葉性由来だということであろう。 表皮と神経はずいぶん違う器官だが、それが同じ発生起源をもつというのは妙な感じなのである。 しかし、実は表皮は、神経なのであった。 ヒトの表皮細胞には中枢神経系の神経伝達物質(ドーパミンやセロトニンなど)の産生能力と受容能力があった。 さらにこれらの神経伝達物質をヒトの角層欠損部(傷)に投与すると修復が早まったり遅まったりする。 海面動物には神経系は無い。 しかし、すべての細胞が情報センサーである。 クラゲのような刺胞動物になると散在神経系であり、神経細胞は体表に発達する。 つまり、神経はもともと体表にあったのである。 それが進化の結果、体のなかにとりこまれるようになり、中胚葉系の器官の運動を支配するようになったのだ。 (夏井睦『傷はぜったい消毒するな』光文社新書,2009年) 【実習】ウニの発生。 生きたウニやプレパラートを利用して発生の経過を検鏡する。 時計皿の未受精卵に精子を加えると,精子が卵の周囲に集まって来るのも観察できる(光量を絞るか,反射光にするとよく観察できる)。 【参考】棘(キョク)皮動物はウニ,ヒトデ,ナマコなどを含む。 これらは似た幼生期を持つ。 ヒトデには歯がないが,ふつう噴門胃を口の外へ反転させて,包みこんで消化し,これを腕の中にのびている盲臥に送って吸収する。 胃の先は短い腸で肛門につづくが,不消化物を口から吐きだす場合が多くて肛門はほとんど使われず,種類によっては肛門がなくなっている。 大部分は雌雄異体であるが,外観から雌雄は区別できない。 生殖巣は腕の中にあり,生殖口は腕の付け根に開いている。 海中に産みだされた卵は孵化 ふか したのち,ビピンナリア幼生 bipinnariaになって,しばらく浮遊生活をし,水底に沈んで幼ヒトデになる。 再生力が強く,ヒトデ類では中央の盤がついていれば1本の腕から全体を再生することもできる。 (平凡社,世界大百科事典より) ナマコの呼吸樹の基部にはキュビエ管という白色の細いねばねばした管があり,敵からおそわれたときは肛門からだして相手の体にからませる。 さらに腸や呼吸樹も体外にだし,その間に敵からのがれるが,放出した内臓の諸器官は2ヵ月ほどで再生する。 雌雄異体と同体のものがあるが,同体のほうが多い。 異体の場合も外観からは区別できない。 生殖腺は1個のみで,触手付近の背中側に開口する。 海中で受精した卵は孵化 ふか したあと,アウリクラリア幼生 auricularia となり,次いでドリオラリア幼生 doliolaria,ペンタクチュラ幼生pentactula に変態して成体になるが,すぐにドリオラリア幼生になるものもある(平凡社,世界大百科事典より)。 イモリは前足指が4本,後足指が5本,2-3年で成熟。 オオサンショウウオは3年で成熟。 サンショウウオの名前の由来は皮膚から山椒の匂いがするため。 カエルの抱接期・産卵期はアカガエル Rana属は1~2月,ヒキガエル Bufo属は3月,アマガエル属は5月である。 寿命は長く,飼育下ではアマガエルが15年生きた記録もある 山内祥子・片山健『アマガエルとくらす(たくさんのふしぎ168号)』より)。 卵塊は球形(アカガエル属),ひも状(ヒキガエル属),泡状(アオガエル属)など。 カエルやイモリ、サンショウオなどの両生類の受精卵は淡水中で尾芽胚まで餌なしで発生する。 野外で産卵された卵は翌日には原腸胚や神経胚に発生しているのが普通で、人工受精でなければ初期発生の過程を観察することは難しい。 もっとも広く生息するニホンアマガエルの卵塊でさえなかなか発見できないが、5月か6月に産卵直前の雌雄を採集して同居 させると首尾よく産卵・受精する場合がある。 モリアオガエルの産卵中の卵塊 を採取できれば観察可能である。 アカハライモリの雌雄を飼育するのもよい。 【コメント】蛙合戦(かわづがっせん) ヒキガエルは啓蟄の頃,集団で山から池に下りてきて,雌雄が抱接し,受精する。 雌雄の抱接は夕方から始まり,朝方には山へ戻る。 絞め殺されたカエルが残されるので,蛙合戦と言われたが,喧嘩ではない。 オスは手近な個体に抱きつくが,オスの場合はわき腹を押されると,脳から出ている鳴き声抑制機構が外れて,「ゲゲッ」と鳴いて,オスであることを知らせる。 メスは鳴かないので,オスはわき腹をしめ続け,その刺激によってメスは産卵する。 そこへオスは放精する(体外受精)。 逆に抱きつかれたりしたオスは鳴けないので,死んでしまう。 (畑正憲『天然記念物の動物たち』より) 神奈川県足柄上郡山北町の般若(はんにゃ)院の蛙合戦は神奈川県の天然記念物に指定されている。 【演示実験】カエルの鳴き声のマネ。 ニホンアマガエル(ゲッゲッ),シュレーゲルアオガエル(コロコロ),ウシガエル(ブオーッ)。 (1) 端黄卵 (卵黄がやや多い。 未受精卵は保護のゼリー層でねじれていろいろな 方向を向いているが、受精して受精膜ができると、卵がなかで回転するため、 重い植物半球が必ず下に位置する。 受精後、精子の侵入点の反対側に、灰色三 日月環が現れる。 不等割 第1卵割は経割で 卵黄の少ない動物極 から卵割する。 第2卵割も経割である。 この4細胞期までは 割球は同形同大である。 第3卵割は緯割で、 卵黄の多い植物半球を 避けて、赤道面よりやや 動物極に偏ったところで 起こる。 8細胞期は動物半球に 4個の小割球、植物半球 に4個の大割球となる。 その後の卵割は動物 半球で早く進み、32細胞 期ごろから細胞が数百 に達するまでを桑実胚と 呼び、卵割腔はしだいに 大きくなっていく。 カエルの胞胚ではウニに比べて、胞胚腔が半円形で狭く、動物半球に偏っている。 また、胚壁は一層ではなく数層の細胞からなり、動物半球では薄く、植物半球では厚い。 陥入によって生じた空所が原腸で、動物半球に偏って出来る。 原腸の植物極側の細胞層が内胚葉になり、全体を包む細胞層が外胚葉となる。 陥入が進むと、線状の原口がしだいに半月状に、そして円形となり、これを卵黄栓とよぶ。 この部分は後に肛門に分化する。 両生類も新口動物である。 原腸胚では胚葉形成とともに前後、左右、背腹の軸ができる。 下図の初期原腸胚は左右の軸で切断、後期はさらに前後の軸で切断、図の上が背側、下が腹側を示す。 (3)神経胚と器官形成 原腸胚を過ぎると、胚の表面の背側の外胚葉が厚くなり、 板のような構造の神経板ができる。 やがて、神経板の中央 に神経溝という溝ができる。 神経板の両側のひだは高さを 増して内側に折れこみ、合着して神経管を形成する。 神経板、神経溝、神経管ができるこの時期を神経胚という。 神経胚全体はやや前後にのびて長くなる。 原腸の背側にあった中胚葉はしだいに腹側にものびてくる。 神経板の下の中胚葉は棒状になって脊索となり、その左右は 体節となる。 植物半球の内胚葉のほうに伸びた中胚葉は側板 となる。 脊索は胚の時期に体を支える背骨のような働きをするが、脊椎骨自体は体節から分化するものだ。 側板は内蔵筋 に分化する。 (4)尾芽胚と器官分化 神経胚を過ぎると、さらに前後に延びて尾ができ、 尾芽胚となる。 尾芽胚期に外胚葉・中胚葉・内胚葉 からそれぞれに決まった器官がつくられるもとの原基が形成され、それが器官に分化する。 表皮や神経は外胚葉性器官、骨格や横紋筋は中胚 葉性器官、呼吸器や消化器は内胚葉性器官である。 =卵から体ができる仕組み ヒトの体細胞は60兆個あるという。 それも,もとは1個の受精卵が分裂してできたものである。 60兆個になるにはいったい受精卵は何回分裂すればいいだろうか。 関心のあるひとは計算してみよう。 ところで,遺伝子の項目で学習したようにそれらの細胞はすべて同じ遺伝子を持っているのである。 だとしたら,なぜヒトの体はただの細胞のかたまりになってしまわないのだろうか。 なぜ頭や手足といったちがいがあるのだろうか。 それぞれの組織を調べてみると,細胞のかたちもぜんぜん違っているのである。 前章で学習したように外胚葉性器官と中胚葉性器官では,形態も機能をまるで異なる細胞から出来ている。 いったい,いつ違いが生じたのだろう。 また,その違いは戻せないものなのだろうか。 細胞の分化(Cell Differentiation)とは,細胞(Cell)のちがいの原因を探る課題である。 ひと昔まえには謎だらけだったこの分野は,いまや遺伝学や進化学とあいまって,新発見のあいつぐ生物学上もっともホットな分野となっている。 結論を先に示しておこう。 遺伝子が細胞の形態を支配する。 遺伝子にいろいろな働き(作動,抑制,調節など)のものがあることは,既に第1部で学習した。 細胞をかたちづくるものは,タンパク質である。 つくられたタンパク質は,ひるがえって遺伝子の働きを調節したり制御したりする。 さらに,このようなタンパク質の働きや調節遺伝子に影響する物質や要因にはさまざまなものがある。 近年の分子生物学は遺伝子とタンパク質の多様な相互関係を描き出している。 分子的扱いが主流になったためと思われる。 前成説=発生前に体は卵内に形成されているという説 【コメント】イヴの入れ子説。 もしも古典的な前成説が正しいとすると,母はその母(祖母)の卵内に形成されていたし,祖母はさらにその母(曾祖母)の卵内に形成されていた。 これをたどっていくと結局,イヴの卵内にすべての人類が入れ子になっていたことになってしまう。 すべての人類が生まれてしまったときが、人類の終末になるため、キリスト教の終末観とも合致するが,いったん立ち消えた。 卵のなかに子供のミニチュアが入って いるという考えは中世には自然な考えであった。 精子が発見された後では 子供のミニチュアが卵の中にいるのか,精子のなかにいるのかが大問題となった。 ハルセッカーは精子のなかにこそ子供が潜み,卵はその養分にすぎないという精子論者であった。 顕微鏡で丹念に精子を観察した結果,ついに精子内にうずくまる子供を発見したとして報告したのである。 しかし,この観察は追試に耐えなかった。 同じ方法で観察しても他の 誰にも子供は見えなかったからである。 私たちはハルセッカーを笑うこと ができるだろうか。 目をつぶっても夢は見える。 信ずる者には無いもの も見えるものなのである。 精子論者にせよ,卵子論者にせよ,卵発生の前に体は形成されているという考えを 前成説という。 これに対して,体はじょじょに形成されていくという考えが 後成説である。 血液循環説を発見した英国のハーヴェイは鶏卵の発生を慎重に観察して後成説を唱えた。 しかし,顕微鏡がいくら発達したとしても見えないほどミニチュアは小さいのかもしれない。 観察だけでは前成説と後成説のどちらが正 しいのか,らちがあかなかった。 焼き殺した割球だけでなく正常な割 球も正常に発生せず,不完全な胚ができた(1888年)。 実験結果を受けて,ルーは見えないけれども, 受精卵内に体は既に出来ていると考察した。 つまり前成説が正しいと判断した。 ルーは発生現象を実験で探求する実験発生学の創始者となった。 ウニ卵を用いた実験でドリーシュは異なる結果を得た(1895年)。 2細胞期に分離した割球はサイズは小さいながらも完全な胚に発生したのである。 実験結果は卵の体をつくる能力がまだ調節可能であることを示して後成説に有利な証拠となった。 いろいろな動物の卵を卵割途中に分離してみると,ウニ卵のように4細胞でも完全な胚に発生する生物もあれば,クシクラゲのようにモザイク性を示す生物もあった。 クシクラゲのように一部の割球をはずすと不完全になる卵を モザイク卵,ウニのように一部の割球を失っても完全な胚をつくる卵を 調節卵と呼んで区別することになった。 しかし,卵の種類わけもそう簡単ではなかった。 ルーの実験では不完全胚をつくったカエルの卵でさえ,マクレンドンは焼き殺した割球を除くと完全胚になり調節卵的であることを示した。 クシクラゲ卵も受精前に卵を2分して核のある方を受精させると完全幼生を発生した。 したがって調節卵とモザイク卵の違いは発生運命の決定時期が早いか遅いかにすぎないと考えられるようになった。 (2) 細胞質の重要性 ドリーシュはウニ卵を使った実験で未受精卵の細胞質に発生を調節する何かがあることを示した。 このウニの種類は植物半球に色素の帯をもつので,未受精の段階から動物極側と植物極側の区別がつく。 正常な発生では第1卵割は経割である。 未受精卵を経割したほうでは、割球は正常発生したが,未受精卵を緯割した(自然界ではこのような分割はありえない)場合には,異常な胚が生じた。 動物半球側からは動物極に分化する頂毛をもつ,いわば動物極化した胚が生じ,植物半球側からは陥入したものの異常な形のプルテウスが生じた。 この実験結果は細胞質に不均等に分布する発生を制御するなにかをバランスよく細胞質に含むことが重要であることを示している。 ドリーシュの時代には不明だったが、おそらくそれは調節タンパク質であろう。 培養液中の隣接した細胞に信号を送ると,隣の細胞に伝達される。 細胞が同種ならよく伝わる。 イモリ卵にて) 20世紀の初旬に,ドイツで両生類のイモリ卵を材料に画期的な研究が相次いだ。 シュペーマンの眼の発生の研究,フォークトの局所生体染色法による予定運命図(原基分布図),シュペーマンの誘導と形成体の提案などである。 しかし、2013年からの『生物』では「参考」レベルに後退した。 これらの研究は,細胞の発生運命の決定に隣接する細胞の細胞質のなにかが影響することを示している。 なにかの正体はタンパク質である。 (1) フォークトの予定運命図(原基分布図) フォークトはイモリの胞胚の表面を無害な中性赤やナイル青で局所的に染色して,着色部域が発生でどのような器官や組織になるのかを調べた。 フォークトの方法を 局所生体染色法といい,得られた予定運命図を 原基分布図という。 原基とは分化が進んでいない細胞集団を指す。 なかでももっとも重要な部域は陥入をもたらす 脊索中胚葉であり,この部域を 原口背唇という。 英語ではfate mapというから,訳語は予定運命図がよい。 しかし正式名称は原基分布図。 それを研究したシュペーマンは巧妙な方法を用いた,卵の色が違う2種類のイモリで交換移植を行ったのである。 まず2種類のイモリの発生時期を同調させる。 そして初期原腸胚で,一方の明色の予定表皮片を切り取って暗色の予定神経域に移植する。 暗色の方から切り取った予定神経片は明色の予定表皮域に移植する。 こうして移植片の発生を追跡したところ,移植片はどちらも移植域に応じて発生した。 つまり予定神経域に移植された予定表皮片は神経に発生し,予定表皮域に移植された予定神経片は表皮に発生したのだった(1924年)。 移植片の発生運命は変わったのである。 この結果は移植片の発生運命は未決定だったことを示している。 交換移植実験を後期原腸胚に行うと移植片は移植域に無関係に予定運命通りに発生した。 しかし,移植片の発生運命が変わる場合もあった。 初期神経胚で行うと,移植片は完全に予定運命にしたがって発生した。 初期神経胚では予定表皮や予定神経域は 決定されているのであった。 このことからイモリの胚の外胚葉は原腸胚期から初期神経胚へ移行する過程で決定されていることが明らかになった。 いったい原腸胚から初期神経胚までの間に何が起こったのだろうか。 ただ単に時間がたったと考えるのではなく,シュペーマンは変化の物質的基盤に着目した。 初期原腸胚の予定表皮域や予定神経域の裏側には何も他の細胞層はない。 しかし,陥入が進むにつれ,予定外胚葉域の裏には脊索中胚葉など中胚葉性の細胞群が接するようになる。 予定外胚葉の決定には,入り込んできた中胚葉の働きかけがあるのではないか。 では,どうやってそのことを確かめたらいいのだろう。 ここでもシュペーマンは交換移植技術を用いた。 シュペーマンの指導で実際に実験を行ったのは大学院生のヒルデ・プレショルドだった。 (3) マンゴルドとシュペーマンの誘導の実験 ヒルデは初期原腸胚の原口背唇(脊索中胚葉予定)を原口の反対側に移植していた(図のbの位置)。 その結果,通常の発生でできた第1次の神経板(図のd)の反対側に,移植片で誘導された第2次の神経板ができた(1921年)。 シュペーマンはこの事実を正しく評価した。 脊索中胚葉は初期原腸胚の段階で既に脊索に決定されているのである。 そして自身は脊索になるだけではなく隣接する外胚葉に働きかけてそれぞれの発生運命を決定するのだ,と。 いち早く決定されてほかの細胞にはたらきかけるこのような組織を、シュペーマンは 形成体( オルガナイザー)とよぶことを提案した。 また,オルガナイザーの働きかけを 誘導とよぶことを提案した。 1921年ヒルデ・プレショルド女史(後にマンゴルド)は原口背唇を移植した胚に第二の神経板が発生したのをオットー・マンゴルドに見せた。 下図のdとeである。 マンゴルドは完全に第二次胚が形成されたこと(図e)は何か大した新事実に違いないと感じた。 そこでヒルデとオットーはふたつの胚を写真に撮った。 ちょうど乾板が定着されたころ、シュペーマンが講義の準備を心にかけながら教室へやって来た。 オットーは写真を見せた。 シュペーマンは最初eの胚を移植された一次胚だと思ったので関心を払わなかった。 しかし、やがて一次胚は実は裏にある(図d)ことが分かるとただちにこの実験の意義を悟った。 彼はこの実験の重要さを熱心に説明した。 その年は手術した胚の死亡率が高く、翌年に二年めの実験を行った。 この実験でいちばんよく発生した胚が図f-iである。 数百の胚移植実験のうち尾芽胚まで生存したのは5例(2次胚形成)。 1924年にorganizerの発見の論文が公刊された。 (ヒルデは論文が掲載される2ケ月前に自宅で油で火傷を負い,亡くなった。 Mangold, 1924. Uber Induktion von Embryonalanlagen durch Implantation artfremder Organisatoren. Arch. mikrosk. Anat. Entw. -mechan. 100, H. 初期原腸胚の 原口背唇(せき索中胚葉予定)を,他の原腸胚の卵割腔内に移植した (註:マンゴルド女史自身は卵割腔内ではなく,原口の反対側に移植している。 後にノーベル賞を受賞したシュペーマンはヒルデを讃えている。 【参考】誘導物質はなにか 形成体の誘導物質の探索が多くの学者によって行われた。 しかし,決め手となる誘導物質はなかなか発見されなかった。 誘導を起こす物質が無かったというよりも,なんでも誘導を起こしてしまったからである。 浅島誠が発見したアクチビン(タンパク質)は脊索中胚葉以前に中胚葉誘導物質として確認された物質である。 (4) 誘導の連鎖 「形成体」という考え方で,イモリの目の発生を「誘導の連鎖」という観点から理解することができるようになった。 目の発生自体はシュペーマンが交換移植に取り組む前の研究である。 神経管の前端部はふくらんで脳になる。 脳の一部が眼胞という突起になる。 眼胞が表皮の裏側に接してくぼみ,眼杯となる。 眼杯は表皮から水晶体(レンズ)を誘導する。 水晶体は表皮から角膜を誘導する。 原口背唇が第一次形成体だとすれば,目の発生では眼杯は第二次形成体,水晶体が第三次の形成体である。 このように先に決定された組織が形成体となって誘導の連鎖をかたちづくる。 誘導の連鎖が順序よくつながることで器官の形成が正しく行われる。 シュペーマンの研究 (これらの研究は1898年から1908年にかけて行われている。 脊索中胚葉が出す誘導物質は何だろうか。 誘導物質は一次形成体と二次形成体では異なる物質だろうか。 さまざまな物質が誘導物質の候補に上がったが,分析するには少量すぎ,タンパク質精製技術も未熟だったため,これといった特定の物質はなかなか見つからなかった。 また,脊索中胚葉を誘導する物質の探索も行われた。 そんな模索のなかで,ニューコープはアフリカツメガエルの胞胚を用いて内胚葉が中胚葉を誘導することを証明する実験を行った(1969年)。 予定外胚葉域が中胚葉に分化するのは 予定内胚葉と接着させたときである。 これまで注目されてこなかった予定内胚葉 が中胚葉を誘導するはたらきを持って いたのだ。 ピーター・ニューコープと中村治が行った さまざまな実験を模式的にまとめると, 左図のようになる。 胞胚の植物極側からは動物極側の細胞を 中胚葉に分化させる信号Mが放出される。 精子侵入点の反対側ではニューコープ・ センターの植物極側からシュペーマンの 形成体を誘導する信号Vが放出される。 信号Vの出すメッセージは細胞を背側に 分化させるものだった。 これらの信号の正体はDNAを使った近年の 研究技術の開発で可能になり, ようやく明らかになった。 どちらもタンパク質であった。 これらのタンパク質はノーダル遺伝子の転写を促進し, 合成されたノーダルタンパク質が動物極側に働きかけ, 中胚葉が誘導されるのである。 (6) アクチビンと器官の誘導 ニューコープの実験での胞胚の予定外胚葉をアニマルキャップと呼ぶ。 浅島誠が誘導物質を探求する過程で発見したアクチビンというタンパク質は,アニマルキャップに対する興味ふかい作用を示した。 濃度によって異なる器官を分化させたのである。 アニマルキャップを培養する際にアクチビン処理を行い,結果を見る。 アクチビンを加えない場合には表皮に分化した。 低濃度では中胚葉性の血球や体腔上皮,中濃度では筋肉(中胚葉性),高濃度では脊索(中胚葉性),さらに高濃度では心臓(中胚葉性)や肝臓(内胚葉性)に分化した。 アクチビンとレチノイン酸を一緒に作用させると腎臓組織(中胚葉性)やすい臓(内胚葉性)に分化した。 ニューコープの実験から推定される信号Mはアクチビンと別のタンパク質がセットになったものと推定されている。 単独で培養されたアニマルキャップは表皮に分化するが,形成体と接触させて培養したアニマルキャップは神経に分化する。 外胚葉から神経が誘導される現象を神経誘導という。 培養実験の結果からは,形成体からなんらかの物質が作用して外胚葉を神経に誘導させたように見えた。 しかし,実際には外胚葉の表皮形成を阻害するタンパク質を形成体が分泌していた。 アニマルキャップは BMP(骨形成因子)というタンパク質を分泌し、BMPを受け取った細胞は表皮に分化する。 このBMPに形成体が分泌するタンパク質(ノギンやコーディンなど)が結合すると表皮分化が阻害され,神経分化を引き起こすのであった。 (7) アポトーシス プログラム細胞死 器官形成においてあらかじめ決められた位置の細胞が死ぬようにプログラムされている場合があり,このような プログラム細胞死のうち,細胞全体が委縮して断片化する細胞死をアポトーシスとよぶ。 それに対して細胞膜の破壊による細胞死は壊死である。 アポトーシスのように細胞が死ぬことも器官形成においては重要である。 例えば,ヒトの手足の先では,最初に扇のような形ができるが,発生が進むにつれて指と指の間にあたる細胞がアポトーシスを起こして消失し,指ができる。 水鳥のみずかきはこの指の間の細胞がアポトーシスを起こさずにある程度,残ったものである。 アポトーシスはウイルスに感染した細胞の除去にもはたらく。 アポトーシスの分子的機構は線虫で判明している。 キャンベル『生物学』によると次のようである。 線虫から発見された2つの主要なアポトーシスを起こすタンパク質Ced-3(Cedは細胞死 cell deathの意味)とCed-4は通常は不活性である。 線虫では、ミトコンドリア外膜上のCed-9がアポトーシスを抑制している。 細胞がアポトーシス・シグナル(自殺シグナル)を受信するとCed-9が不活性となり,Ced-3やCed-4が活性をもち、細胞内のタンパク質を裁断するプロテアーゼやDNAを裁断するヌクレアーゼが活性化される。 ヒトなどの哺乳動物では約15個の酵素を含む経路でアポトーシスが誘導される。 線虫の発生における分化誘導とアポトーシスの役割の研究でブレンナー、サルストン、ホロウィッツは2003年にノーベル医学生理学賞受賞。 決定され分化した細胞であっても,核のなかの遺伝子は受精卵と共通で全身をつくる能力を備えているのではないだろうか。 核に全能性(全身形成能力)があるのなら,核の周囲をとりまく細胞質環境を変えてやれば,核の全能性を回復することが可能になるということが出来る。 シュペーマンはイモリの16細胞期の核を1個だけ未卵割の細胞質に移すと正常胚に発生することを実験で示した(1938年)。 この核は16細胞期の細胞質に囲まれていれば体の一部を発生するだけだが,細胞質環境を変えることによってその全能性を発現したのである。 シュペーマンの実験 16細胞期の卵も全能性をもつ(Ebert, &Sussex,1970より) このシュペーマンの実験の現代版が英国のガードンの実験である(1962年)。 アフリカツメガエルの幼生の腸上皮細胞の核を,あらかじめ卵核を紫外線で殺した未受精卵の細胞質に移植したところ,正常発生した。 ただし,正常胚発生率は15%と高くはなかった。 正常胚発生率は胞胚核では80%,原腸胚核では70%だったから,発生が進むにつれて核には何か核の全能性を阻害する要因が増えてくるということは確かである。 Gurdon, J. , 1962. The developmental capacity of nuclei taken from intestinal epithelium cells of feeding tadpokes. develop. biol. , 10:622-640. (この論文はpdfで入手可能です) ガードンの実験 1962年 アフリカツメガエル 未受精卵を除核し,胞胚核を移植 80%は正常なカエルに発生 未受精卵を除核し,原腸胚核を移植 70%は正常なカエルに発生 未受精卵を除核し,幼生の腸上皮核を移植 15%は正常なカエルに発生 (2012年度ノーベル医学生理学賞受賞 iPS細胞の山中伸弥教授と共同受賞。 体細胞からできた新個体は母体と共通の遺伝子をもつ体細胞クローンである。 ガードンの実験は脊椎動物で初めての体細胞クローンの成功だったし,体外受精させたヒトの卵からの女子の誕生と重なって,クローン人間の話題が世界各地で注目された。 ウィルムットの実験 1997年 クローン(=同じ遺伝子をもつ子の集団) clone 羊のクローン成功 羊のメスの乳腺細胞の核を除核卵に移植し,代理母の子宮に着床させて,発生 羊の子 メスが誕生 = クローン羊 Dolly (移植する方と移植される方の細胞のタイミングを合わせておく必要がある) マウスの嗅上皮細胞の核を卵細胞に注入しての体細胞クローンも成功した(Nature,2004年3月) 中国科学院 クローン猿 誕生 2018年1月25日 読売新聞 核を除いたカニクイザル成体の卵子に 胎児の体細胞の遺伝情報を入れた。 79個の卵を21匹のメスに移植 6匹が妊娠 2匹が1匹ずつ出産 霊長類では初めての体細胞クローン 哺乳類のクローン動物の作出は技術的な困難さから,なかなか実現しなかったが,英国のロスリン研究所のウィルムットのチームがヒツジで初めて成功をおさめた(1997年)。 誕生したメスの子ヒツジはドリーと名付けられた。 ヒツジのメスの乳腺細胞の核を除核卵に移植し,代理母の子宮に着床させて,発生させたのである。 成功のひけつは移植する細胞と移植される細胞のタイミングを合わせておく必要があり,細胞周期のG 1期に移植することだったという。 この実験の成功をきっかけに,他の家畜でも次つぎにクローン動物が成功した。 マウスの嗅上皮細胞の核を卵細胞に注入して,マウスの体細胞クローンも成功した(2004年)。 ちなみに,ヒト細胞を使っての実験は各国で禁止されている。 ただ,ドリーはおとなの細胞核を移植させたためか,普通の子ヒツジより老化が早く,早世した。 発生におけるエイジング(加齢)の影響が無視できないことが確認された。 動物の体細胞クローン作成技術は優秀な形質をもつ家畜の生産,同一遺伝子をもつ実験動物の生産,絶滅危惧動物の保護・再生などへの利用が期待されている。 補足 分化に伴って核の遺伝子がなくなる例もある。 免疫のリンパ球に起こる。 (2) 幹細胞 動物の体のなかにはさまざまな組織に分化可能な細胞がある。 それが 幹細胞(ステム・セル stem cell)である。 ステムstemとは茎のことで四方八方に枝葉を広げることができるという意味がある。 特に哺乳類の胞胚内部にある細胞塊は培養と選別によって多様な細胞に分化を誘導させることが出来た。 この細胞をES細胞(胚性幹細胞)という。 ヒトのES細胞も得られた(1998年)。 ヒトのES細胞を得るには受精卵を発生途中で処理する必要がある。 研究するにしろ応用するにしろ倫理的な問題がある。 もしも皮膚の細胞で胚性幹細胞と同様の幹細胞ができたら,倫理的な問題はなくなる。 マウスの皮膚細胞(線維芽細胞)でそのような幹細胞が作出された(山中伸弥,2006年。 論文は無料で入手可能です)。 さまざまな種類の細胞に分化することを多能性というため,これを人工多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem cells),略称 iPS細胞とよぶ。 ヒトの皮膚からのiPS細胞も成功した(2007年)。 iPS細胞は皮膚細胞そのままではなく,4種類の遺伝子を導入して作出している。 導入した遺伝子のなかには増殖能力を高める発がん遺伝子も含まれていたため,がん細胞化する危険性が指摘され,改良された。 2007年12月には発がん遺伝子を除いた3種類の遺伝子でも作出できることがわかった。 自己の皮膚からiPS細胞をつくり,iPS細胞から組織や器官を作れば,拒絶反応のない臓器移植が可能になり,応用面で大きな期待ができる。 2012年10月9日 読売新聞より 京都大学が(無料) 受賞直後の会見や12日の「次世代へのメッセージ」で山中教授は 「10%も成功すれば大成功。 90%は失敗の連続」とか、 「1回成功するには、平均9回くらいは失敗しないといけない。 人生も実験もそうだ。 失敗しても恥ずかしいことではない」 (読売新聞記事をTV報道で修正)と話した。 2012年10月10日 読売新聞より。 この発表は 虚偽だった(10月13日)。 一面トップで報じられたが森口尚史氏の所属・経歴・研究いずれも 虚偽だったと確認され、記事も削除された。 削除せずに記録しておく。 山中教授自身は応用面について甘い見通しは持っていない。 細胞の増殖が暴走することが一番心配だと語っている。 数を増やすことはできてもその後の応用にはまだ研究が必要と言う。 細胞が骨に変る難病FOPの治療薬 開発に成功するか! 2017年10月5日 NHKニュースによれば FOP患者の皮膚細胞からiPS細胞を作り、 FOP細胞に分化させることに成功した その細胞に薬効のある物質を探索 ラパマイシン(免疫抑制剤としても使用されている) 効力があることを確認 医療テストに臨む。 パーキンソン病やALSなど155種類の難病治療の研究が iPS細胞を利用して行われている。 他の細胞でも同じことが起こるかどうかは今後の研究によるだろう、と感じたのだが、『ニュートン』2014年4月号にはNatureの二論文に関する解説が出た。 『週間現代』には、論文に対する批判の紹介があった。 『ニュートン』によると、「生後7日以内のリンパ球」のほかにも、脳・皮膚・筋肉・脂肪などすべての組織の体細胞から幹細胞へ変化させることに成功したそうである。 元の細胞が分化した体細胞であったのかという疑問を確認する実験も行われていた。 T細胞は分化すると遺伝子が組み換えを起こす性質を利用して幹細胞へ変化したT細胞の遺伝子を確認したという[追記(4月1日);詳しく検討すると証明になっていなかったことが判明した]。 『週間現代』の報道では論文にミスがあるという点が専門家に指摘されているという。 STAP細胞から作ったマウスの胎盤の写真と別の方法で作った比較対照用の写真が同じ胎盤のものだったという点。 この点は多数の写真を撮影したため間違えたものだという。 他にも実験に使った遺伝子の情報が公開されていない、追試が成功していないなどの問題があるという。 成り行きを見守る必要があろう。 3月11日の新聞各紙によると、共著者の若山照彦教授(作製された細胞が多能性があるかどうかを確認するマウスの実験を担当した)は、小保方さんの博士論文(幹細胞の多能性に関する論文)の多能性を示す画像と一部酷似していることに「STAP細胞の根幹に関わる大事な部分の信用性を疑わせる」と指摘、10日に共同著者に論文の撤回を呼びかけた。 若山教授は研究室に保管している細胞を第三者に調べてもらう考えを示したという(3月11日記)。 3月14日(金)2時から理化学研究所の記者会見が行われた。 調査委員会の石井博士は、指摘された問題点についてまだ調査中で、悪意のないミスが二点確認されたものの、小保方博士論文の画像とNatureの論文の画像に関しては同じものとしか思えないと説明した。 この一点だけでも、論文は重大な欠陥となる。 竹市雅俊博士は「論文の体をなしていない」とコメントし、撤回すべきとの見解を述べた。 理研の研究者三名は撤回に同意しているという(理研の研究者は小保方氏から博士論文の写真だとは説明されていなかったと証言)。 電気泳動画像の切り貼りを認めた小保方氏は、切り貼りはよくないという認識が無かったと述べたという。 コントラストが弱かったので別に流した材料でコントラストの強いものと変えたのである。 ただ泳動時間が違ったので他の画像の縦の長さを伸ばしてゲルの像とそろえたという。 [追記:4月9日の小保方不服申し立て会見では切り取った画像を角度を変えて短くしたと説明された] 結果が合っていさえすれば印象の良い結果を作り出しても良いという慢心が小保方氏にあるように思えた。 推測でしかないが、博士論文の画像の流用も酸性溶液に浸しただけではうまく幹細胞化しなかったため、幹細胞が出来ることは間違いないのだからという慢心から異なる方法で作った組織の画像を使ったのだろう。 新聞によると、分化していない細胞、つまりES細胞を使ったから多能性という結果になったのではないかという批判もあるという。 この見解は、私が成果を聴いたときに最初に感じた不安と同じだ。 11jigen のはまとめられている。 私が感じた疑問も既に指摘されていたことが分かった。 以下はその部分の引用。 だが、「論文からはその根拠がハッキリしない」と言うのは、理化学研究所やワシントン大で免疫学を研究したことのある明石市立市民病院研修担当部長の金川修身氏である。 「細胞がリンパ球に分化すると『遺伝子再構成』という現象が起きる。 ということは初期化(別の細胞に変化)した『STAP細胞』でできたマウスのリンパ球にも『遺伝子再構成』が必ず見られるはずです。 しかし、論文ではそこが分かりません。 さらに(第三者も同様の研究結果を得る)『再現性』の報告も今のところ見当たらず、失敗報告ばかりです。 断定的なことは言えませんが、もう一度(実証実験の)やり直しという可能性もあるでしょう」 (日刊ゲンダイの記事より) 慶應大学の吉村昭彦教授も、研究室ホームページ上の記事(TCR組み換えデータの重要性)にて、「私の関心はSTAP細胞が論文に書いてあるように『未分化細胞からのinductionであってもとからある幹細胞のselectionではない』という結論が妥当かどうかという点。 繰り返しになるが、それをTCR-rearrangementで決着つけようとするならば、T細胞からできたSTAP細胞、STAP幹細胞、それにキメラマウス(4Nから作ったものが望ましい)のgenomic DNAのTCR rearrangementを調べる必要がある。 」と指摘している。 これらのブログを見る限り、STAP細胞の論文は信用できないことが理解できる。 ワードに転載して しておきます。 95ページもありますが,なぜ科学者が騙されるかの問題の本質を指摘しています。 難波氏の結論は55ページにあります。 最初の段階で難波氏が疑ったのはリンパ球T細胞の遺伝子再構成の件。 現在の高校生は『生物基礎』の免疫の単元で<発展>項目として利根川進の研究を目にする。 実験ノートが不備で画像が特定できないことも明らかになった。 「天才的な詐欺師はいい人に見える」。 4月9日に不服申し立て会見があった。 小保方さんは自分では自分の実験ノートだから追跡できると証言していたが、実際には自分の記録も第三者に分かるようにきちんと書いていないと、分からなくなるものです。 自分で書いたことだからわかっていると思うのは「思い込み」の典型的な症状で、無意識のウソつきである。 自分で思い込んだことを信じる人である。 若山教授から渡されたマウスの細胞から作ったSTAP幹細胞が違うマウスから作ったものだったという事実も、意図的なら明らかに捏造だし、意図的でなくとも実験記録をきちんと付けていないから起こることである。 再生は失われた器官の形成なので,全身の形成ではないのだが,細胞レベルでいえば,再生で起こる細胞の脱分化と再分化は,核移植された細胞の発生と共通点があった。 (1) 目の再生 たとえば,イモリの目の水晶体の再生では,水晶体を摘出すると,これまで水晶体と接していた虹彩上部の色素を持った細胞が体細胞分裂し始める。 細胞の増殖とともに色素をもっていたはずの虹彩細胞は脱色し特徴のあまりない細胞に変わる。 これが細胞の脱分化である。 つまり脱分化は体細胞分裂と同調して起こる。 次に増殖した細胞はお互いどうしが接触するようになると体細胞分裂を停止し,透明化していく。 細胞は水晶体に再分化したのである。 この経過はほかの再生組織でも同様であり,細胞を培養したときの変化も基本的には同様である。 再生現象も発生の研究課題である。 遺伝子のある核のはたらきを細胞質が制御・調節するといった段階ではなく,DNAをタンパク質などが制御・調節するしくみがわかってきたのである。 既に第1部「遺伝子の発現調節」でオペロン説などを学習した。 この章では発生,つまり細胞の分化に遺伝子やタンパク質がどう関係しているかを見ていこう。 この分野は生物学のなかで現在もっともホットな分野となっている。 (1) ホメオテイック遺伝子 昆虫の触角が脚に変化するといった,からだの一部が別の器官に転換する現象をホメオーシスとよび,自然界でもホメオーシスを生じた昆虫やエビなどが見つかっていた(図a)。 ベーツソンは多くのホメオーシスを記載し,研究した。 もっとも多くのホメオーシスが記載された昆虫の体の正常形は頭部・胸部・腹部の三部に分かれ,胸部はさらに前胸・中胸・後胸の3つの体節に分かれるもの。 胸部の各体節には一対の脚があり,中胸と後胸にはそれぞれ一対の翅がある。 ただし,ハエ類では後胸の翅は退化して平均棍という棒になっているので,翅は中胸の一対である(左写真)。 1940年代末にエドワード・ルイスはキイロショウジョウバエのホメオティック突然変異の研究を開始した。 脚の発現をコードする遺伝子の突然変異が奇形や死を引き起こす。 後胸が中胸と同じ形態に変化してしまい,4枚翅となった個体も見つかった。 そしてルイスはこのホメオーシスの原因となった遺伝子も発見した(左写真)。 そして,ホメオーシスを支配する遺伝子はホメオティック遺伝子とよばれるようになった。 研究のまとを卵細胞のもつ情報に影響を及ぼす遺伝子変異の解明にしぼったスイスのバーゼル大学のポスドク研究員クリスティアーネ・ニュスライン=フォルハルトとエリック・ヴィーシャウスは,寝る間を惜しむような長時間労働をくり返し,4万個のキイロショウジョウバエの遺伝子を調べ上げた。 ひとつひとつ遺伝子をノックアウトして,その結果がハエのどの表現型を破壊したのかを見つけるという気の遠くなるような作業である。 最終的にハエの体節構造の形成と体制 ボディ・プラン を決定する上で,重要な15の遺伝子を同定し分類した。 ベーツソンが野外で見つけたのと同様,触角が脚に変換している個体も見つかり,アンテナ(触覚の意味)ペディア(肢の意味)遺伝子の突然変異によるものだと分かった。 これらのうち8個はホメオティック遺伝子で,各体節に固有の器官を形成するのに重要な調節遺伝子であった。 (2) ホメオボックス キイロショウジョウバエでホメオテイック遺伝子とその機能が明らかになって以降,ほかの動物でもホメオテイック遺伝子の発見が相次いだ。 ハエの第2染色体に8個のホメオティック遺伝子が順序良く並んでいるように,他の生物でも同じであった。 さらにDNAの塩基配列の解析が進むと,おどろくべきことがわかった。 これら8個のホメオティック遺伝子には共通の塩基配列があったのである。 180個の塩基から成る共通部分はホメオボックスと名付けられた。 ホメオボックスが翻訳されて作られるタンパク質(アミノ酸60個分)はDNAに結合する部分であるらしい。 ホメオボックスをもつ遺伝子をホメオボックス遺伝子と呼ぶことにしてみると,ホメオボックス遺伝子はほかにもあり,混乱を避けるためにホメオティック遺伝子を専門家は特にHoxクラスター遺伝子と呼んでいる。 Hoxクラスター遺伝子はハエだけでなく,マウスにもヒトにもあった。 しかもその発現も機能も同じであった。 ハエの遺伝子を研究すると,ヒトの遺伝子を理解できるのである。 ハエもヒトも共通なのだ。 衝撃的な実験も行われた。 ハエの複眼をつくる調節遺伝子(アイレス遺伝子)をハエの触覚や脚で発現させると,触覚や脚に複眼ができる。 脚にできた眼も奇妙だが(写真),まだハエの体のなかの変容だということが出来る。 しかし,マウスの目をつくる調節遺伝子をハエの触覚で発現させると,やはり触覚にハエの複眼ができたのである。 マウスの目は複眼ではないのに,その調節遺伝子は複眼を,しかもハエで作ったのである。 そうしてみると,調節遺伝子は,いわば親方のような遺伝子であるらしい。 親方の命令一過,一斉にドミノ倒しのように働く(これをカスケードという)大工さん遺伝子があるようだ。 ハエの大工さんは複眼をつくる。 マウスの大工さんはカメラ目をつくる。 しかし,親方の仕事は共通だ。 ハエの親方が命令しようと,マウスの親方が命令しようと,大工さんたちは自分の仕事をするだけであるらしい。 [註:マウスのHoxなどは進化の章で扱う] (3) 母親が卵に渡すmRNA 私たちは配偶子から受精卵に伝わって娘細胞に渡された遺伝子だけで発生が進むものだと思ってはいないだろうか。 だが,ちょっと待って欲しい。 卵形成は母体の卵巣内で起こるのだ。 母親は卵子に何もはたらきかけをしないのだろうか。 子供に渡すものは卵黄という栄養分だけなのだろうか。 最近の研究は,もっと他に遺伝子を調節する物質も渡すことを明らかにしてきた。 ショウジョウバエの初期発生では受精に引き続き,胚の前後軸方向(頭-尾方向)と背腹方向の決定が行われる。 これらの決定には母親が卵内に渡したビコイドとナノスというmRNAが中心的な役割を果たす。 受精後にこれらのmRNAは翻訳され,ビコイドタンパク質とナノスタンパク質が生成される。 ビコイドタンパク質は前方(頭方)に多く,後方にいくにつれ少なくなるのに対し,ナノスタンパク質はその反対である(下のグラフ)。 ビコイドタンパク質は遺伝子発現を制御する転写調節因子であり,ナノスタンパク質もビコイドタンパク質とは別の働きをする制御因子である。 ちなみにハエの卵は表割で細胞は卵表面にあり,初期胚では分裂した核が細胞膜に仕切られていなくて,ちょうど大きなひとつの細胞のなかに多くの核がならんでいるような多核体になっている。 約6千個になるまではこの状態なので,核はビコイドタンパク質のような転写調節因子にさらされるわけである。 分節遺伝子はビコイドタンパク質がある一定濃度以上のときに作用して,体節が形成される。 図示例は前後軸の場合だけを示しているが,背腹軸はまた別の母性因子が関連して決定される。 ショウジョウバエのような母性因子による前後軸・背腹軸決定は,ニワトリやマウスでは知られていない。 しかし,軸が決定した後に背側の一定領域に形成体域が形成されることが分かってきた。 予定中胚葉の陥入運動,神経胚形成,器官形成などについてはカエル,ニワトリ,マウスともに共通した基本的な分子メカニズムが働いていることが明らかにされている。 (参考は浅島他『分子発生生物学』より) (4) エピジェネティクス 細胞は発生の途中で多くの環境の影響を受ける。 環境には隣接する細胞も環境要因も含まれており,遺伝子の発現調節に働くものがあり,近年,遺伝子との関係で注目を集めている。 DNAの塩基配列の変化を伴わずに表現型の変化を作りあげる遺伝的メカニズムがエピジェネティクス(epigenetics)であり,「後成説」エピジェネシス(epigenesis)と「遺伝学」ジェネティクス(genetics)を合成して作られた用語である(1942年)。 ある細胞でオンになった遺伝子が体細胞分裂後も遺伝子がオンになったまま受け継がれるとしたら,これはエピジェネティックな現象である。 私達はすでにガードンの核移植のクローン実験から胞胚,原腸胚,幼生と発生が進むにつれて,次第に全能性が失われていく事実を知っている。 これがエピジェネティックな変化である。 集団遺伝学者のライトは発生遺伝学の創設者でもある。 ハーバード大学のキャッスル門下でモルモットの遺伝の研究に取り組んだライトは生理学出身だったので、遺伝子の生理学に注目し、毛色の化学にもこだわった。 メンデル遺伝からの小さなずれを重視し、個々の遺伝子の影響よりも遺伝子座の違いの影響を重視した。 ライトの仮説は20世紀前半当時、ほとんど評価されなかった。 ライトはエピジェネテイックな変異を研究した。 モルモットの毛色のアグーチ遺伝子Aである。 アグーチ形質は野生型で黒と赤の縞の毛を持つ。 変異型は黒色の代わりに黄色が多くなる。 変異型遺伝子をaとすると,このAとaだけでは実際の結果をうまく説明することが出来なかったので,ライトは第3の条件遺伝子を仮定した。 さらに少しのズレは環境要因が影響している結果だと仮定した。 モルモットは大きくて扱いにくい。 マウスにもアグーチ遺伝子Aがあり、Aの野生型は黄色から灰色まで多様で、aは灰色である。 調べてみると、アグーチ遺伝子がメチル化される度合いで毛色が変化するのだった。 黄色いマウスではメチル化されておらず、灰色ではかなりメチル化されている。 まだらのマウスは中間的だった。 黄色の母親は黄色の子を産み、灰色の子は灰色の子を多く産む。 エピジェネティックな変異は遺伝するのだった。 エピジェネティクスは多様な遺伝現象を説明できる理論として注目を浴びている。 エピジェネティクス以前は、私たちは発生における遺伝子調節もプログラミングされている、その受精卵のプログラミング自身も遺伝子の制御の範囲にあると思い込んでいた。 しかし、エピジェネティクス研究は、 遺伝子調節もリプログラミングできる、そのリプログラミングが母親の制御、環境の制御によって行われることもあると知らせてくれたのだ。 [図 Nessa Carey, 2011. 正常なマウスでは、 アグーチ・タンパク質は周期的に発現し、マウス毛皮特有のまだら型になる。 この周期的な発現パターンの分断は長軸方向に黄色と黒の毛をもたらす。 逆に レトロトランスポゾンの発現変異はアグーチ遺伝子の発現に影響し、毛色の色彩変異を示す。 [遺伝子のONとOFFが周期的だとアグーチ・タンパク質も周期的になり、縞状の毛になる。 挿入されたレトロトランスポゾンは異常RNAを発現し、 アグーチ遺伝子が永久にスイッチが入ると黄色の毛になる。 黄色の母親はアグーチ遺伝子を連続的に発現し、制御されたレトロトランスポゾンのDNA メチル化を低いレベルにするため、黒毛の子は生まれない。 母親のエピジェネ的に決定された 形質は子供に影響する。 皮膚での X染色体の不活性化のパターンにより、細胞のクローンのパッチがオレンジ色と黒色の 離散的なパターンを生じさせる。 考察:細胞はすべての遺伝子を持っており,ONになる遺伝子が細胞独自の特徴を形作る。 他の遺伝子はOFFになっている。 しかし,細胞質の条件が変わると遺伝子がONになる。 分化を固定するしくみが明らかになってきた。 修飾されたヒストンはDNAが巻きつけられたままになる。 (2)DNAのメチル化 シトシンにメチル基が付加される。 その結果、DNAは遺伝子としての機能を失う。 教養部の発生生物学教室の実験材料はアフリカツメガエルだったが、動物発生学実習の材料はヒキガエルだった。 カエルも卵も大きいので、扱いやすいことから選ばれたのだろう。 さて、人工授精させた卵を用いて、シュペーマンの実験の追試が課題とされた。 受精卵を髪の毛でしばってその後の発生を観察する、局所生体染色法を試みる、胚の体の一部を削って二頭の胚を結合するといった実験である。 私たちは自分の髪の毛を使って卵をしばったり、胚を固定する寒天培地を作ったりと、結構、真剣にこれらの実習課題に取り組んだ。 ところが、実験はすべて失敗したのである。 原因はカビだった。 髪の毛も意外に汚いものなのであった。 アッという間に胚を固定する寒天培地にカビがはえて、カビの発生観察になってしまうのである。 局所生体染色も、胚結合実験もすべて寒天にカビが生えて終わった。 シュペーマンの実験室には設備が無く、自分の髪の毛で胚をしばったと教えられた私たちは、おそらくカビと格闘したであろうシュペーマンの苦労を思いやったのであった。 むろん、実習の目的は違うのだが。 失敗ばかりで、いったい実習のレポートはどうなったのだろうか。 それなりに失敗を記録して提出したと思うのだが、記憶が無い。 みんながみんな失敗だったから評価のしようもなかったと思うが、なにはともあれ、全員合格していた。 《》= 《》 発生学の生物学史 池田博明 「細胞培養の研究」に関蓮して『生物基礎』教授資料朱註p. 72-73,82-83,および『新編生物基礎』教授資料朱註p. 55,72-73,82がある。 人間がどうして誕生するのかに関しては古来いろいろな考えが発表された。 発生前の卵のなかに体が形成されているという素朴な前成説が信じられていた時代もあった。 血液循環論を唱えたハーヴェイはニワトリ胚の発生を観察して器官が徐々に形成されるという後成説を唱えた。 顕微鏡が発達し,イタリアの解剖学者マルピーギは卵内に縮小された動物が存在するという前成説を主張した。 オランダのスワンメルダムも同様の考え方を示した。 ハルセッカーは精子内に小人ホムンクルスが入れ子になっている説と図を描いた。 グラーフとステンセンはウサギの卵巣内に卵を発見したと主張した(1672年)。 彼らの見たものは濾胞であったが,前成説の根拠とされた。 ヴォルフがニワトリの初期発生を調べ各器官は初めから存在するのではないという後成説の根拠を与えた(1759年)。 現代発生学の父,ベーアは各種の動物の胚発生を比較して各胚葉から形成される器官は動物の種類に関係なく一定であることを示した(1828年)。 ヘッケルは発生反復説を唱えた(1868年)。 ドイツのルーWilhelm Roux はカエルの二細胞期の片方を焼き殺して発生を観察した。 焼き殺した割球だけでなく正常な割球も正常に発生せず,不完全な胚ができた(1888年)。 実験結果を受けて,ルーは受精卵内に体を作る因子は既に出来ていると考察した。 つまり,前成説が正しいと判断した。 ルーは形態形成に潜む因果関係を実験で探求することの重要性を強調し,単なる記載の対象にしかなっていなかった人工的な奇型の意味を説いて実験発生学を創始した。 ルーの考え方は若い研究者を魅きつけた。 ヴァイスマン August Weismann も重力の影響を受けても卵は正常発生するというルーの実験結果から前成説を支持し,『生殖質説,一つの遺伝理論』(1892)では核内の自己増殖し分化を促す因子(Biophor)や組織発生を制御する因子(Determinant)、器官発生を制御する因子(Id)を想定した。 イドがまとまってイダント(Idant)となり染色体を作るという。 ヴァイスマンは1883年にファン・ベネーデンにより発見されていたウマ回虫卵での減数分裂の意義を説明した。 極体の放出は不必要な核物質の排除であり,体細胞分裂では分裂ごとに核物質が不均等に分配され,分化が進むと考察した。 ヴァイスマン説は不明だった減数分裂時の染色体のふるまいをうまく説明したために受け入れられた。 また,体細胞と生殖細胞の役割を分けることによって,獲得形質の遺伝を否定した。 前成説に共感していたドリーシュHans A. Driesch はウニ卵を分割する実験で,ルーとは異なる結果を得てショックを受けた(1891年)。 2細胞期に分離した割球はサイズは小さいながらも完全な胚に発生したのである。 実験結果は卵の体をつくる能力がまだ調節可能であることを示して後成説に有利な証拠となった。 アメリカのマクレンドンは焼き殺した割球を除くと完全胚になり調節卵的であることを示した。 モザイク卵として有名なクシクラゲ卵も受精前に卵を二分して核のある方を受精させると完全幼生を発生した。 また,ドリーシュはウニ卵を使った実験で未受精卵の細胞質に発生を調節する何かがあることを示した。 このウニの種類は植物半球に色素の帯をもつので,未受精の段階から動物極側と植物極側の区別がつく。 正常な発生では第1卵割は経割である。 未受精卵を経割したほうでは割球は正常発生したが,未受精卵を緯割した(自然界ではこのような分割はありえない)場合には,異常な胚が生じた。 動物半球側からは動物極に分化する頂毛をもつ,いわば動物極化した胚が生じ,植物半球側からは陥入したものの異常な形のプルテウスが生じた。 この実験結果は細胞質に不均等に分布する発生を制御する物質をバランスよく細胞質に含むことが重要であることを示している。 ドリーシュの時代には不明だったが,おそらくそれは調節タンパク質であろう。 20世紀の初旬に,ドイツで両生類のイモリ卵を材料に画期的な研究が相次いだ。 シュペーマンHans Spemann の眼の発生の研究,フォークトKarl Vogt の局所生体染色法による予定運命図(原基分布図)の作成(1922年),シュペーマンの誘導と形成体の提案(1924年)などである。 これらの研究は,細胞の発生運命の決定に隣接する細胞の細胞質のなにかが影響することを示している。 誘導現象をシュペーマンの指導で実際に実験を行ったのは大学院生のヒルデ・プレショルドHilde Preshold だった。 ヒルデは初期原腸胚の原口背唇(脊索中胚葉予定)を原口の反対側に移植していた(図のbの位置)。 その結果,通常の発生でできた第1次の神経板(図のd)の反対側に,移植片で誘導された第2次の神経板ができた(1921年)。 シュペーマンはこの事実を正しく評価した。 脊索中胚葉は初期原腸胚の段階で既に脊索に決定されているのである。 そして自身は脊索になるだけではなく隣接する外胚葉に働きかけてそれぞれの発生運命を決定するのだ,と。 いち早く決定されてほかの細胞にはたらきかけるこのような組織をシュペーマンは形成体(オルガナイザー),オルガナイザーの働きかけを誘導とよぶことを提案した。 1921年は交換移植手術をした胚の死亡率が高かったので,1922年に二年めの実験を行った。 二年目の実験でいちばんよく発生した胚が図f-iである。 数百の胚移植実験のうち尾芽胚まで生存したのは5例(2次胚形成)だった。 プレショルドはシュペーマンの共同研究者マンゴルドOtto Mangold と結婚し,ヒルデ・マンゴルドとなり,ヒルデ・マンゴルドとシュペーマン共著のオルガナイザーの論文は1924年に公刊された。 しかし,ヒルデは論文が公刊される二ケ月前に自宅で調理中に油で火傷を負い,亡くなった。 享年26歳だった。 後にノーベル賞を受賞したシュペーマンはヒルデを讃えている。 後の研究者が原口背唇を初期原腸胚の胞胚腔に移植して二次胚形成率を高めている。 その後の発生分野で最大の業績はホメオティック遺伝子の発見である。 木村資生はこれを「20世紀最大の発見」と評価していた。 研究の主役となったのは大腸菌やファージに遺伝材料の主役を奪われてしまった時代遅れの生き物,キイロショウジョウバエだった。 カルテクの生物学教授ルイスEdward B. Lewisはキイロショウジョウバエのホメオーシスを1940年代から研究し,1978年には双胸遺伝子複合体を発見していた。 昆虫の触角の再生で歩脚が生じるような,ある体節が他の体節に丸ごと置き換わる現象をホメオーシス(相同異質形成)と呼んでいて,前世紀にベーツソンWilliam Batesonが詳しく記録していた。 ベーツソンは高校の教科書にはスイトピーの連鎖の遺伝で登場するだけだが,メンデルの遺伝法則を最初に評価し,PやF1など現在も使用されている遺伝学の用語を考案し,遺伝学会を設立して英国に遺伝学を普及した生物学者である。 Wieschausはハエの遺伝子を傷つけ,それが体のどの部分に変異として表現されるかを研究した。 夜もほとんど眠らぬ日が続くほど顕微鏡をのぞき続け,彼らは四万の変異を調べ,15の体節形成に関わる遺伝子を発見した。 それらがホメオティック遺伝子だった(1980年)。 さらに,1983年にスイスのバーゼル大学のゲーリングWalter Jakob Gehringの研究室であらゆるホメオティック遺伝子に共通のDNAの塩基配列が発見され,「ホメオボックス」と名づけられた。 この180塩基から成る共通部分はカエルの遺伝子でもマウスの遺伝子でも,ヒトの遺伝子でも発見された。 ハエもカエルもヒトも共通だなんて,言葉を失うような革命的な発見であった。

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発生学の大スター:ウニとヒトデ

ウニ の 発生

いろいろな動物について、卵から成長する過程&それに関係する諸問題を調べる学問を発生学といいます。 この分野には多くのスターがいますが、その中の大物、大スターと言えば、やはりウニとカエルでしょう。 高校で、生物を履修された方は、ウニの発生とカエルの発生は必ず教わったことと思います。 その中でもウニは、卵が透明で観察しやすいこと、材料が手に入れやすいこと、人工受精が簡単にできることなどから、昔からよく調べられてきました。 わが研究室では細胞分裂の研究などに、ウニとその親戚のヒトデを使ってきましたので、「新知識」とはそぐわないかも知れませんが、この愛すべき生き物たちについて少しお話したいと思います。 ウニの発生:臨海実習で大活躍 ご承知のとおり、ウニは海の生き物ですから、陸のど真ん中の研究室ではちょっと実験をやりにくい。 海水をわざわざ買って海水入りの水槽に入れて飼うか、海辺に立てられた実験所に出張するかして実験します。 この海辺の実験所は多くは大学の付属機関で、臨海実験所と呼ばれます。 ちなみに日本は、世界のうちでもかなり早くから臨海実験所を持っていました。 大学で生物学を専攻すると、多くの場合この臨海実験所で、1週間ほど泊り込みで実習を行います。 うまいことウニの繁殖期に実習時期があたると、ウニの発生の観察を行うことができます。 まず雌雄のウニを用意して、卵と精子を取り出します。 精子を海水で薄め、卵にかけるとほぼ100%受精します。 この人工受精ができると、観察・実験には大変好都合です。 受精後の時間経過がきちんとわかるだけでなく、受精前後の現象について実験できます。 また受精直前の卵や精子の状態を観察することもできます。 臨海実験所を見学する機会があったら、ビーカーなどの脇に墨汁が置いてあるのを見るかもしれません。 これは実験所で書初め大会を開いた!・・のではなく、ウニの未受精卵をペトリ皿などに入れてそこに墨汁を垂らすことを、よくやるからです。 こうすると、ウニの卵のまわりにあるゼリー層が見えるようになるのです(もっとも、きちんとふたをするのを忘れ、墨汁がガビガビに乾いていることもあるようです)。 またウニを使った簡単な実験も、実習ではよく行われます。 例えば、ウニの未受精卵を酪酸という酸で処理すると、精子抜きの発生(単為発生と言います)に似た現象を作ることができます。 ただこの酪酸はえらく臭いので(10日間履き続けた靴下を想像してください)、食事の前にはやらない方がいいかも。 受精後のウニは、しばらくほっといても発生していきますが、エサを食べるようになるとほっとくわけにはいきません。 といっても、昔はほっとくしかなかったのですが、ずいぶん前に、ある高校の先生が、エサを人工的に増やしてウニの幼生を飼育する方法を確立して、今ではかなり大きくなるまで飼育できます。 使わなかったウニや、飼育してきた幼生ウニは、海へ戻してやります。 こうやって、実験をする人々は、ウニが減らないように注意しながらやってきたのですが、それでも環境の変化などでウニが大分減ってきました。 ウニが貴重品になってきたのです。 学生が臨海実験所に実習にやってきても、ウニを使いづらくなってきました。 墨汁の出番も少なくなってきました。 そこでウニに代わってヒトデが、実習・研究の友として脚光を浴びるようになります。 ヒトデの発生:新しいスターの誕生 もともとヒトデも発生学では古くから使われていたのですが、こちらでは人工受精ができにくかったのです。 写真1は、ヒトデの発達した卵巣です。 きれいなオレンジがかった黄色で、卵がこぼれ落ちています。 これから採った卵に、ウニと同様に精子をかけても、受精しません。 実はヒトデの体内にある卵は、まだ成熟していないのです。 成熟させるためには、卵の外から、ある物質が作用することが必要なのです。 これにはヒトデの神経が関係していることがわかっていたので、実験のたびに神経を取り出してすりつぶしたり、ウニに比べて結構面倒でした。 これを解決したのが金谷と言う先生です。 この金谷先生は、未成熟な卵を成熟させる物質の本体が、1-メチルアデニンというものであることを見出しました。 神経から放出される物質が、卵に密着している濾胞細胞という細胞に働いて1-メチルアデニンを出させ、それが卵に直接作用するのです。 ヒトデから取り出した卵を、1-メチルアデニンにしばらく漬けておいてから精子をかけると、ほぼ100%受精します。 1-メチルアデニンは保存がききますから、人工受精がウニ同様に簡単にできるようになりました。 ちなみにこのヒトデはイトマキヒトデと呼ばれる種類です。 藍色の地に、赤や緑の模様がある、はでなヒトデです。 イトマキヒトデは磯の、やや深いところにいます。 ウニと違って商品価値はありませんが、それでも磯でヒトデ採りをするときは、必ず地元の方に許可を得ます。 潜って採ってきたヒトデは、雌・雄に分けられます。 実験によって雌が多く必要な場合、雄が多く必要な場合があるので、まずこの仕分けを行います。 ヒトデの裏側(どっちが表か、実を言うとよくわからないのですが、派手な模様がないほうです)に、実験用のはさみで、なるべく小さな切れ目をいれます。 切れ目の脇をちょっと押すと、生殖巣の一部が飛び出します。 その色が白かったら精巣で、雄です。 オレンジ色ならよく発達した卵巣、薄黄色ならまだ発達していない卵巣で、雌です。 実験に必要な分だけ取って、余ったヒトデは海に還します。 研究室に持ち帰ったヒトデは、海水入りの水槽に入れて大事に飼うのですが、ときどきへそを曲げて、卵や精子を一気に水槽内に放出する放卵・放精をすることがあります。 これをよく「吹く」といいますが、これで実験材料としての価値はパー。 実験に使おうとヒトデの体を開いたら、カラッポということになります。 ヒトデは五角形をしていますが、そのそれぞれの頂点を水槽の壁に密着させ、五角形の中央部分をぐっと壁から離すと、放卵・放精の合図。 ちょっと待て、早まるな!こうなるとあわててそのヒトデを隔離します。 なぜなら一匹が始めると、他のヒトデも、われもわれもと始めるからです。 ウニも、これを盛大にやるときがあります。 意外にデリケートなヒトデ ヒトデを採取しているときに、不思議そうに「このヒトデをどうするの?」と聞いてくる方がいます。 たまに「食べるとおいしいんですよ!」などと答えたこともありますが(ごめんなさい)、もちろん食べられません。 前にヒトデの料理をテレビで見たことがあるのですが、その地方独特の風習のようで、あまり一般的ではないようでした。 発達した卵巣は実においしそうで、経験者によると実際おいしいそうです。 ただどうやっても、のどを通らなかったそうです。 サポニンなどの物質が含まれているせいでしょう。 ヒトデもやはり減りつつあるようです。 オニヒトデからの連想か、ヒトデは丈夫で、どんどん増えると言うイメージがあるかもしれませんが、実際には意外にデリケートで、研究室で飼っていても、水が少しでも汚れたりするとすぐ弱ります(ヒトデが弱ると、胃袋を吐き出すのですぐわかります)。 生き物はすべてそうですが、ヒトデもいったん数が減ると、回復するのは結構大変です。 商品価値はないし、地元の方々にもあまり歓迎されていないようだし、何の役にも立っていないようですが、学問的にはとても大事な生き物です。 100年前から観察に使われ、40年ほど前から人工受精法の確立とともに、発生学の発展に貢献してきました。 ウニとヒトデ。 どちらも発生学の大スターです。 磯歩きをするときウニやヒトデにあったら、ちょっと敬意を表していただけるとうれしいな、可愛がっていただきたいな、と思う今日この頃です。 発生生理学研究室 谷本さとみ.

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